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最初の頃のぎこちなさはどこへやら
私はクラウド様に完全に心を開き、彼を深く信頼し、甘い愛に溺れるようなラブラブな日々を過ごしていた。
けれど、幸せが深まれば深まるほど
私の心はかつてないほど暗く、激しい情熱に支配されるようになっていった。
きっかけは、クラウド様が不在だったある日の昼下がり。
彼の言いつけ通り、執事を一人伴って街へ散歩に出かけたときのことだった。
雑踏の中で、私は見たくないものを見てしまった。
他の女性と親しげに、柔らかな笑みを浮かべて談笑するクラウド様の姿。
心臓が凍りついたように動かなくなった。
執事が「お話されなくてよろしいのですか?」と怪訝そうに尋ねてきたけれど
私は「いいんです、今は忙しそうですし」と力なく答えて、逃げるようにその場を引き返した。
それだけではない。
最近、彼は私に「可愛い」と言ってくれる回数が減ったのではないか。
そんな些細な、けれど私にとっては致命的な不安が、毒のように胸の奥を蝕んでいく。
(……クラウド様の瞳に映るのは、私だけでいいのに)
以前の私なら、これほどまでに醜い嫉妬を焼くなんて想像もできなかった。
私、どうしちゃったんだろう。
自分の中にある独占欲が恐ろしくてたまらない。
けれど、募る想いはついに、引き返せない一線を越えてしまった。
◆◇◆◇
とある日のこと
『彼を眠らせて、部屋に閉じ込めてしまえば……そうすれば、クラウド様は外の誰にも邪魔されず、私だけを見てくれるかもしれない』
狂気染まった計画を胸に、私はその日の夕食、一振りの小瓶を用意した。
「昼に、クラウド様が好きそうなワインを見つけて買っておいたんです。だから、一緒に飲みましょ?」
食堂で、私は努めて自然な笑顔を作り
あらかじめ強力な睡眠薬を混入させたワイングラスをクラウド様に勧めた。
私は、自分の分の食器を出し忘れていたとに気づき、一度席を立つ。
戻ってきた私は彼と静かに乾杯を交わす。
彼は私の目をじっと見つめながら、悠々とワインを喉に流し込んだ。
(飲んだ…クラウド様、眠ってくれるといいけれど)
「美味しいですか……? 変な味とか、しませんか……?」
期待と不安が混ざり、声が震える。
一方、クラウド様は平然とした顔で「美味しいよ? ほら、エリシアも飲んでごらん」と私のグラスを眺めた。
私は、渋々とグラスを口にした。
その瞬間、世界がぐにゃりと歪んだ。
猛烈な睡魔が意識を刈り取る。
ガタン、と椅子から崩れ落ちる私の体を、クラウド様は反射的に、そして力強く抱き留めた。
「……か」
遠のく意識の淵で、彼の低く冷ややかな声が聞こえた気がした。
◆◇◆◇
翌朝、重い瞼を開けたとき、視界に入ったのは見慣れた自室の天蓋だった。
体を起こそうとして、ベッドのすぐ傍らに座る影に気づき、全身の血の気が引いた。
椅子に座り、冷ややかな眼差しで私を射抜いているのは、クラウド様だった。
彼は一晩中、私が目覚めるのをここで監視していたのだろう。
徹夜明けのような疲れた顔が、かえって彼の静かな怒りを際立たせていた。
「エリシア、おはよう。やっと起きたんだね」
「ク、クラウド様……どうして、ここに? 私は…」
喉がカラカラに乾いている。
断片的な記憶が、昨夜の犯行を突きつけてくる。
「……昨夜、一緒にワインを飲んだ所までは覚えてるかな」
「は、はい……」
「そこでだ。珍しく君がワインを一緒に飲もうと勧めてきたから、おかしいとは思ったけれど。僕のグラスに、睡眠薬でも混ぜたんじゃないのかい?」
「……っ! それ、は……」
動揺を隠しきれず、背中に嫌な汗が伝う。
「まぁ……試しに君のグラスと入れ替えてみたら、君が危ない倒れ方をしたからね。起きてから事情を聞こうと、ここにいたわけだけど」
明らかに怒っている。
彼の声のトーン、冷徹な表情、すべてがこれまでにないほど恐ろしかった。
心臓が止まるような衝撃を受け、私は己が犯した罪の重さに、ようやく震え上がった。
罪悪感が一気に押し寄せ、視界が涙で滲む。
「ごっごめんなさい……っ」
震える声で頭を下げることしかできない私に、クラウド様は容赦なかった。
彼は私の顎を指先でクイッと持ち上げ、無理やり視線を合わせさせた。
「そこまでして……また、僕から逃げようとしている…ということかな」
「えっ……?」
「僕を好きだと言ったのは、油断させるための嘘だったんだ」
なにかとんでもない誤解をされていて、私は必死に首を振った。
「ち、違います……っ!! 私、クラウド様のことは誰よりも愛していますし……!」
「……君は、愛する相手に、こんな危険なものを飲ませるのかい?」
「……っ、ごめん、なさい……そういうわけでは…」
「謝罪が欲しいわけじゃなく、どうしてそんなことをしたのかを聞いているんだよ」
「……そ、それは……っ」
「言えないのかい?」
「……っ、……今は…言え、ません……」
嫉妬で狂っておかしくなったなんて、そんな醜い理由、言えるはずがない。
「……なら──僕から逃げようとしているようにしか思えない」
「違っ……違うんです……本当のことを言ったら……っ、クラウド様は私のこと嫌いになります…っ、だから…もう、二度と……こんなことはしませんっ。何でもしますから…許してください……っ」
嫌われたくない。けれど、独占したい。
その矛盾した想いに苦しみ、泣き叫ぶ私を見て、クラウド様の理性はついに焼き切れたようだった。
「……往生際が悪い子だ。仕方ない───無理矢理にでも、身体に聞くしかないようだね」
瞬間、抵抗する間もなく彼は私を押し倒した。
深い口付けで呼吸を奪われ、着ていたドレスも呆気なく腰まで剥ぎ取られる。
激しいキスで口の中を弄ばれ、息もできない。
愛撫も手短に済まされ、彼の熱く硬いものが私の中へと突き入れられた。
恐怖と痛みに震えるはずなのに、クラウド様が激しく動き始めると
得体の知れない快楽が押し寄せ、頭が真っ白になっていく。
「……早く本当のことを言わないと、やめてあげないからね」
容赦なく私を攻め立てながら、彼は耳元で低く吼えた。
「僕から逃げるつもりなら……絶対に許さない。エリシアは僕だけのモノだと言っただろう……っ」
「んぅ……っ! ち、ちがっ……!」
「何が違うと言うんだい」
「ちがうん……ですっ! ほんとは……っ、しっと、しちゃ……た、だけで…っ」
赤面し、涙目で泣きながら、私はついにその醜い本音を吐露した。
その瞬間、クラウド様の動きがピタリと止まった。
寸止めの焦燥感に、私は「やっ……止まら、ないでぇ……っ」と身悶えする。
だが、彼は冷徹に言い放った。
「……嫉妬って、意味がわからない。……そのまま、全部白状するなら最後までしてあげるよ」
その言葉に、体は正直に反応してしまった。
腰が勝手に疼き、私はもう何も隠せなかった。
「……っ、さいきん……クラウド様……っ、可愛いと言ってくださりません……っ」
「え」
「……っ、そ、それに、この間……街で、他の女性と楽しそうに話していたのを、見てしまって……っ。クラウド様に目移りでもされたら、わたし……隣にいられなくなるかもって……っ! 不安で、怖くなって……」
「……つまり、それで、僕から逃げて他に愛してくれる男のところに行こうとしたのかい?」
「全く違います……っ! そうじゃなくて、いっそ……クラウド様のこと眠らせて…部屋に閉じ込めておけば、ずっと私だけを見てくださると思って……っ。本当に……ごめんなさい」
「閉じ込める? 僕を?」
クラウド様は呆然としたように呟いた。
「……馬鹿なことをしたとは思っています……っ。私…最近おかしくて……クラウド様のこととなると、目の前が見えなくなってしまって……っ。うう……ぅ……ごめん、なさ……っ、きっ、嫌われ、たくない…のに、こんなのっ、こんなに重い私なんて……っ、もう、いらない……っ、です、よね……うっ……ひっぐ…」
泣きじゃくりながら震える私を、クラウド様は突然、壊さんばかりの力で強く抱き締めた。
「……なんだそれ……その、可愛すぎる理由……っ」
嬉しそうに、笑い混じりに言われ
私は「え、え……?」と戸惑いの中、涙が止まった。
「……でも、まさか君がそんなに嫉妬していたとは。それで、僕のことを監禁しようとしたって?」
「ご、ごめんなさい……っ、罰を与えるなり、煮るなり焼くなり……クラウド様の好きにしていいので、どうか許してくれませんか……っ」
未だ震える私の手を、彼は優しく、けれど離さない強さで握った。