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美濃の暮らしは、炎と共に燃えた。仲間はどうなっただろうか。
皆、逃げきれただろうか。
いや、皆の心配をするよりも、まずは自分の心配をしなければならない。まずは、敵方に見つかりにくいところで雨風を凌ごう。次に食料の調達…自然で獲られる物には限りがあるな。ならば買うか。買うには金が必要だ。….うーむ、困った。
東海道を進めば、南の町に出るだろうか。
南の市場を目指して歩く。剣術や流鏑馬などの武術には自信があったので、獲物を捕らえることに苦労はなかった。植物も、食べても死ぬ死なないが区別出来ればそれでいい。
しかし困るのは野盗だ。
殺すことは簡単だが、野盗とは言え人。人を食べる趣味はないので、殺す必要はない。….ないのだが、今まで生け捕りの指示を数回しか受けていないから、わざと外すのが大変だ。
男性のフリでもして歩けば、絡まれる回数は減るのだろうが、残念ながら私の生まれ持った身体はそうもいかない。
身長は四尺七寸と平均だし、顔付きは幼いし、声は同年代の女性よりも高い。髪は黒だが、身長を盛ったとしても、男性には見えない。マシなのは、身体の凹凸が少ないことくらいだ。サラシが必要なくて助かる…うん….だけである。
そんなこんなをして、ひと月が経ってしまった。途中で道草を食らうものだから、まだ目的地に辿り着けていない。野盗だけではなく、春の嵐が身体を撃つものだから余計。
「はぁ….」
疲れた….。どこかで座って休もうか….。
「お疲れですか美濃の姫武者ァ!!」
「?!」
木の上で、幹に身体を預け、風に当たり一休みしていると、何やら騒がしい声が背後から。….背後から?!
「そうでしょうとも!美濃からここまで嵐を抜けて参られた!それはそれは大変だったことでしょう!!
お初にお目にかかります!私、信濃国・諏訪大社が当主、諏訪頼重と申します!!」
「…..はぁ」
諏訪大社は聞いたことがある。美濃と信濃は近く、行ったことは無いが噂程度に。しかし、どうやってここまで登ってきた?地上から成人男性3人は縦に並ばないと私のいる場所には辿り着けない。
諏訪殿の黒い烏帽子やら、よく見れば美しい顔立ちやら、緑に光る目などはどうでもよく。さらに橙色の首から下げられた布やら、神主の白い服よりもさらに下。紫色の袴に似た物から伸びた足は少しかさ増しされていて、それがなんと木の幹に必死に巻きついている。
よく見れば震えているし。
震えているのは可哀想なので、私は木からヒョイと飛び降りて、とりあえず話だけでも聞くことにした。草履に伝わるのは、生き生きとした草たち。私は諏訪殿を見る。不審な動きを見せたら、腰の刀で斬ることはできるし、背中の弓で抵抗もできる。小太刀でだって同じだ。
「分かりますよ、ゆう殿!今後ひとりで生きて行かれるのは大変でしょう」
「….なぜ、私の名前を」
「私は神力を操ることができるのです!貴女がここに参られることは存じておりました。お迎えにあがったのです」
胡散臭。
「それで?私を売る気か?」
「いえいえ。滅相もございません!ゆう殿の育った場所は閉鎖的とあれど、外部の情報が全く入ってこない訳でもないでしょう?さすがにご存知なはずです。….鎌倉幕府が、滅亡したというのは」
「それは聞いたことがある。だが、事情は知らない」
「そうでしょうそうでしょう!」
諏訪殿は、神力を操ると言っていた割には、周りをキョロキョロしている。何もいないってば。
「それでですね、ここだけの話、私、北条家の生き残りである北条時宗様を匿っておりまして」
諏訪殿は口元に手をやって話した。
「…それを話してなんになる?同情しろと?してなんになる?」
「私には見えております!貴女様が我々に協力し、若君をお助けする未来が!」
「あぁそう。私は見えないからなんとも言えないが、私じゃなくてもその北条?殿?を守ることはできるだろう?」
「いいですかゆう殿。ゆう殿は行く宛てがない。住処もない。しかし、私に着いてきてくだされば、そのどちらも手に入る。そして我々は美濃の姫武者が仲間に加わってくださる!親族を滅ぼされた若君にとっては、一人でも貴重なのです!ご安心ください!衣・食・住、我々が全て負担しましょうぞ!」
私は呆れた表情を浮かべながら、冷静に考えてみた。
利害の一致、と言えばその通りである。私には利があるし、向こうにも利がある。ただ同情を誘って仲間に入れよう、という浅い考えではないようだ。同情してくれ、と言われれば、私はそれだけでも承諾しただろうが、その場合は私が裏切るかもしれない。諏訪殿は胡散臭くやかましいが、頭が切れる人物のようだ。
「断る理由がない、か….。わかった。お世話になります。しかし、私は単身での行動を重視されて育てられたため、集団行動はあまり上手ではないです。そりゃあできる限り配慮はしますし、私にできることはしましょう。それでも無礼は数えきれないことでしょう」
「構いませぬ!私がいますので安心なされ!それでは、いざ参りましょう!我らが家・諏訪大社へ!」
諏訪殿が歩き出す背中を追いかける。
「あ、諏訪殿。私、その北条?時行?様?と面識がないんです」
「構いません!むしろそれがいい!
あなたは純粋なお方だ。時行様からすれば十近く年上の女性であり姉にあたるでしょうが、きっとすぐに打ち解けることでしょう!」
「あぁ…そう」
「私のことは諏訪殿、ではなくどうぞ頼重とお呼びください!貴女が仕える神であり、父であり、兄でありますからな!」
「は…はぁ….」
頼重さんに圧倒され困惑しながらも、どん底だった私の人生に、一条の光が差し込んだような、晴れやかしい気持ちであった。