テラーノベル
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「ああ、ちょっと待って、今行くから 」
ボクはみんなほど運動が得意じゃないんだ
ちょっとくらい待ってくれたっていいじゃないか
森からはたくさんの動物の声が聞こえる
それはまあ多種多様な声があって、気にしなければ静かだが、よく耳を澄ませばうるさいほど賑やかだ
そして、そのうちの2つは僕を呼んでいる
もう少しこの場で本を読んでいたかったんだけど、仕方ないかな
まだ謎はたくさんだ
なぜこの集落は崩壊した?
誰が崩壊させた?
もともと誰が住み、どう暮らしていた?
そして、ボクが起きたとき、なぜ1人だった?
ここらにある建物は、基本的に破壊されている
それでも確かに人の住んでいた形跡はあるし、実際に食器や家具が残っている
文献だって大量にあるのだ
あとどれだけの本を読めば、全てになるだろう
本を読んだとして、その謎が解明されるわけではないが、手がかりはこれしかないのだから、仕方ない
「ねえ、まだ? 早く遊びたいよ 」
「仕方ないなぁ。わかった、今行くって」
まあいいか
時間はたくさんあるんだから
朝になるといつも道は賑わう
端の方では商人が市を開き、その間を辺りの住人や問屋が行き交う
馬車の車輪の音すら掻き消されるのが、この地の常だった
つまるところ、今日は違った
見慣れない吟遊詩人がいたのだ
その男は、柔らかそうなローブにをベルトで留め、羽のついた帽子を被っているという、いかにもそれらしい服装をしていた
弾いているリュートは割と上質そうなもので、男が弦を弾く度に深く響いた
音が周りへ広がっていく
それと同時に、男へ注目する人間も増えていく
唄い始めると、それはもう神秘以外の何者でもない
優しく爽やかでありながら、情熱的な歌声が、聞く者全ての心を掴む
息を呑むとも、心を奪われるとも表現できるだろうが、それでは足りない
もっと根幹から心臓を掴まれるように、明らかな感動があった
派手なわけでもない、声が大きいわけでもないその歌に、皆が聞き惚れた
感じたことのない懐かしさが込み上げ、市の準備やら買い物やら、それぞれの目的は進めながらも、その男に釘付けになった
一通り演奏を終えると、拍手が巻き起こった
中にはチップを渡す者もいた
男は感謝するわけでも驕るわけでもなく、ただその場でじっとしていた
「君、すごいっすね。こんなに音楽に気を取られたのはいつぶりか分からないっす。名前聞いてもいいっすか?」
話しかけてきたのは、小柄な女性だった
周囲の人間の、布を簡単に加工した服とは違い、複雑な縫製技術が用いられているようだった
「ああ、生憎だが僕に名前はなくてね。ごめん」
「そうなんすね……しかし、見ない顔っすね。このあたりの人じゃなさそうっすけど。どこから来たんすか?」
「ここから見て南西の方……小さい集落だよ。崩壊しているけどね」
「故郷が無くなったから、旅してるってことっすか?」
「いや、物心ついた頃から、崩壊は既にしていたよ。僕は1人だけで、動物たちと暮らしていた」
「えぇ? そんなことあります? だって親も無く友達も無く、言葉も通じない動物とだけで生きるだなんて、さすがに無理があるっすよ」
「動物が言葉が通じないってどういうこと? あいつら、よく本を読む僕を急かして遊びに誘ってきたんだ。木の実の取り方も、魚の獲り方もあいつらに教わったよ。言葉は半分本に教わったけど」
「動物と会話……ああ、なるほど。全部繋がったっす。というか、南西の崩壊した集落ってもしや……ああ、そういうこと!! すみません、ちょっとついてきてもらえませんか?」
「うん? まあどうせ行く当てもないし、いいよ 」
そうして詩人は道から姿を消した
その女性は、大通りに出て暫く歩き、駅へ入った
2人分の切符を買い、男に片方を渡す
「もしかして、列車には乗ったことないっすか?」
「……うん。ここがどういうところかもあんまり」
「とりあえず、大きくて速い乗り物が来るってことを知ってもらえれば大丈夫っすかね」
「ふーん?」
あまり待たないうちに、その列車とやらが到着した
これほど巨大なものをどう動かしているのかは疑問だったが、開いた扉にその人が入っていったので、僕も同じように乗り込んだ
その人は席につくと、向かいの席をポンポンと叩き、座るよう急かしてきた
「これは大ニュースっす。……ところで確認っすけど、さっき言ってたことに嘘はありませんよね?」
「うん、全て本当だよ。嘘はない」
「なら良かったっす。さらに聞くんすけど、君、けっこうな距離歩いてきたでしょ?」
「そうだね。現地の人の服装や見た目が何度か変わるくらいには」
「そこでも、同じように唄って、同じように評価されたと?」
「ああ、だいたいそれで稼いでいたし、けっこうな人が聞いてくれていたよ。よく、懐かしい気持ちになったって言われた」
「ああ、やっぱり。それ、魔法っす。翻訳魔法」
「魔法?」
「そう。君は何個か国を渡ってるはずっす。そしてそこで同じように唄い、同じように会話した。それはつまり、翻訳の能力があるってことっす。言語が変わるくらいには歩いてるはずっすから。動物と会話していたのもそれでしょう。まあ、唄の魅力は君の才能だと思うっすけどね。しかし、ここまで汎用性の高いものは始めて聞いたっすけどね」
「ふーん?」
「まあとにかく、その便利な能力が、君を連れてきた理由の片方っす」
「そのもう片方は?」
「それは到着してからの方が分かりやすいっすかね。ところで、名前を言ってなかったっすね。私はロザリーって言うっす。ロザリー・クレールモン。よろしく」
「うん。よろしく」
暫く列車に揺られた
ロザリーは、ここから北方にあるリジェーヌという国で、けっこうな職業についているらしい
なんでも、他国に出張して、貿易や発展の手助けをするんだとか
さっきも、別の国で仕事があらかた終わり、ゆっくりと帰国している最中だったらしい
「リジェーヌはどんなところなの?」
「いいっすよー、リジェーヌは。とにかく文明が進んでて、活気があるっす。魔法の研究も盛んで、この前も優秀な防御魔法が新しく開発されたらしいっす」
「そういえば、魔法自体始めて聞いたんだけど、そんなにメジャーなものなの?」
「このあたりはほとんどないっすね。魔法は地域差が大きいんすよ。一般人でも簡単に使えるようなところもあれば、さっきのあたりみたいに、認知すらされてないところもあるっす。とはいえ、魔法がある地域には魔物もいるんで、そこは一長一短っすね」
「そこはどういう関係?」
「その地域のマナの関係っすね。マナが豊富だと、あたりの物体に干渉して、魔力が溜まっていくっす。人間にも蓄積されるんで、それで魔法が使えるようになるってわけっすね。ただ、魔物の発生はまだよくわかってなくて、動物が変異したものだとする説や、空間に局所的にマナが集中して魔物になったとする説など、いろいろあるっす」
「でも、僕がもともといたところに魔物は……」
「あ、着いたっすよ」
ちょうど、列車が到着したらしい
ロザリーが案内してくれるので、最初だが困ることはなかった
駅から降りると、町が姿を現した
中央が大きく隆起したような地形をしており、それに沿って建物が置かれている
完全な円錐形ではなさそうなので、あくまで自然物ではあるのだろう
もともとあった山を整形して、それを中心に据えて町が広がっていったということだろうか
「上の人は呼んであるので、待ってたら来るはずっす」
ロザリーは、上部に長い突起のついた機械を、見せつけるようにこちらに向けた
馬車へ向かう途中で耳に当てて話していたのは、上の人とやらに連絡を取っていたのだろう
どういう技術なのかは知らないが
「綺麗な町だね」
機械について語れることはないので、話を変えてみた
「そうでしょう? ここはソルーテスタっていって、リジェーヌでも最も南にある町なんすけど、首都に行けばもっとすごいっすよ!」
「やあやあ、おかえり、ロザリー君」
「あ、ジェフリーさん。ご無沙汰してます。この人が、さっき伝えた人っす」
「そうかいそうかい。君がねぇ。名前は?」
「ああ、すみません。親がいないので、名前はないんです」
「ふむ、それでは不便だな。厚かましいかもしれないが、私が名付けよう。…… そうだな、君はアシュリーと名乗れ。不満はないか?」
「ありません」
「そうか。それは良かった。では、ついてきたまえ。謎多きルイーナの民よ」
コメント
2件
おお、面白かったです!まず冒頭の「動物たちが本を読む僕を急かす」って感覚がすごく新鮮で、一気に引き込まれました。僕も古書を読んでいるときに「そろそろご飯だよ」って現実に呼ばれる感覚に似てるなって笑っちゃいましたが、彼の場合はそれが本気の意思疎通なんですもんね。 翻訳魔法って設定も良いですね。言語の壁を越える能力が”自然に備わっている”というのが、彼の出自や「崩壊した集落」の謎とどう繋がるのか気になります。それに、ロザリーという出会いから物語が動き出す展開も心地いい。あの「ルイーナの民よ」っていうジェフリーさんの台詞、めちゃくちゃ気になります。続きが待ち遠しいですね。
羽海汐遠
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#感動
桜乃恋雨🎼
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