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ようなしたると
1,005
ルイカ
約束の十五分前。
玄関のたたきで履き慣れたサンダルに足を入れ、忘れ物がないか何度もサコッシュの中を確認する。心臓の鼓動が、静まり返った廊下にまで響いているような気がした。
その時――。
ピンポーン、とインターホンが甲高くて静寂を切り裂いた。
「っ、黒瀬さん……!?」
約束の時間より少し早いが、瑞樹なら十分にあり得る。柊吾は弾かれたように顔を上げ、弾む胸を抑えながら玄関のドアノブに手をかけた。
「黒瀬さん、早いですね――」
期待に満ちた笑顔で勢いよく開けたドアの向こう。
そこに立っていたのは、眼鏡をかけたあの穏やかな隣人ではなかった。
派手な柄シャツの胸元を大きくはだけさせ、金髪に近い茶髪をかき上げた男。
口の端に下品な笑みを浮かべ、値踏みするような不躾な視線で、甚平姿の柊吾を頭から足先まで舐めるように見つめている。
「……翔」
喉の奥から絞り出した名前に、男は鼻で笑った。
「よお、柊吾。久しぶりじゃん。元気してた?」
一瞬で全身の血の気が引いていくのが分かった。
数年前、母に認知症の初期症状が出始め、柊吾が仕事をセーブせざるを得なくなった時のことが脳裏によみがえる。
親戚として何気なく「実は母の具合がよくなくて、しばらく仕事を抑えることになりそうなんだ」と今の現状を報告しただけだった。しかし叔父は心配するどころか、「そんなこと言って、俺たちに渡す金が惜しくなったんだろ?」とせせら笑ったのだ。
「姉さんが払えないなら、これからはお前が直接払ってくれるんだろう?」
「え?」
「とぼけんなよ。月20万。最近振り込みが遅かったり、振り込み忘れたりすることが増えたなぁと思ってたけど、まさかボケちまってたとはねぇ。まぁ、俺らには関係ねぇし? 親の尻ぬぐいは子供がするもんだろう?」
そこで初めて、自分が幼い頃から必死に働いて稼いだ金を、母がずっと自分の知らないところで親戚たちに毎月20万円も渡し続けていたという驚愕の事実を知った。
自分の汗と涙の結晶を勝手に貢がれていた衝撃。そして母の不調など心配もせず、自分たちを都合のいい金づるとしてしか見ずにたかろうとする凄まじい理不尽さ。激怒した柊吾がその場で絶交を言い渡し、自ら絶縁した叔父一家。その一人息子が翔だった。
「……な、なんで、ここに」
固まる柊吾をよそに、翔は煙草の臭いを撒き散らしながらズカズカと一歩距離を詰めてくる。あまりの恐怖に咄嗟にドアを閉めようとしたが、それよりも早く、翔はせせら笑いながら土足のつま先をドアの隙間へ強引に滑り込ませた。
コメント
2件
これからハラハラ展開だああああ!!!!マジで頑張ってください!!(作者様へ)
わあ……この展開、すごく心臓に来ました……。待ち合わせの少し前、期待で胸を弾ませていた柊吾さんのあの温かい空気が、一瞬で凍りつく感じ。翔さんの登場の仕方、描写が生々しくて、読んでるこっちまで息が止まりました。特に「土足のつま先をドアの隙間へ」っていう最後の一文、怖さが静かにじわじわ来ますね……。過去の絶縁の経緯も、柊吾さんの境遇が切なくて、胸が締め付けられました。続き、気になります……!