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鉄のにおいが鼻をついた。
目を開けると、天井のかわりに光る膜のようなものが張り巡らされていた。空のようで空ではない、それはスクリーンのように淡い青を映し出している。
――ここは、どこだ。
思考が重い。頭が霞んでいる。
腕を動かそうとして、ようやく自分が冷たい床に横たわっていると気づく。
起き上がると、首筋に鈍い痛み。体は無傷のようだが、内部の感覚がちぐはぐだった。記憶が……断絶している。
名前は?
問いかけると、反射のように浮かんできた。
「いぬい ねこ」
自分の名前。確かにそうだった、と思う。不思議と違和感はない。
しかしそれ以外が――真っ白だ。何をしていたのか、なぜここにいるのか、何歳かすらも、明確には分からない。
……違う。見た目で言えば17歳くらいの少年、自分がそう見えるということは分かる。
そして、自分の頭の上には毛に覆われた動物の耳が生えている。背中の下には、長くしなやかな尾があった。
「耳と尻尾……これは」
あきらかに人間ではない。
そしてこの違和感にも、妙に慣れている自分がいた。もとからこうだったのだと、体が告げている。
立ち上がり、周囲を見渡す。
無機質な通路。壁には何本ものコードが這い、時折ピピッと断続的な音を発している。表示パネルは何も映していないが、動いている――ここはまだ“生きている”。
そのとき、足元が淡く光った。
見ると、自分の足の下に円形の光――青白いリング状のフィールドが発生していた。
重力が逆巻くような感覚。瞬間、体がふわりと浮く。
「……浮いた?」
跳躍するでもなく、空中に留まった。浮遊、あるいは空間制御。それが自分の能力のひとつなのだろう。
覚えていないのに、できる。
このアンバランスが、世界全体に浸透している気がした。
その時、目の前の壁がガタリと動いた。
金属の板が押し曲げられ、内側から何かが出てくる。
咄嗟に距離を取る。右手を構え、無意識に何かを呼び出そうとした。
出てきたのは――
小柄な少年だった。
煤まみれの上着に、血の滲んだ頬。肩で息をしている。年齢は自分と同じくらい、もしくは少し下だろうか。
しかし彼は、砕けた鉄筋コンクリートの梁を片手で持ち上げて、ぽんと放った。
(…おいおいまてや)
見た目にそぐわぬ怪力。それが目の前の事実だった。
「や、やぁ……。君も……落ちてきた?」
声はややかすれていて、だが敵意はない。少年は目を細めて、まぶしそうにこちらを見る。
「ここ、出られそうにないから……うん。誰かいてくれて、助かったって感じ」
「名前は?」
「ん、えーと……たしか……つきのわ しろ。変な名前だよな。けど、それしか思い出せなくて」
「……おれも、名前だけだ。いぬい ねこ。よろしく」
「動物の名前同士だなぁ」
冗談めいたその一言に、ねこは微かに笑った。
この世界で出会った最初の“誰か”。そして、自分と同じように記憶を失った少年。
その瞬間――床に散乱したがれきの間から、何かが光った。
四角い、小さな物体。くすんだ灰色のプラスチック。
表面には、薄く数字が刻まれている。
《REM-001》
つきのわ しろがそれを拾い、ひょいと差し出した。
「これ、さっき落ちてた。なんか、見てると……不思議に気になる。見てみる?」
ねこはそれを受け取ると、懐から――無意識に手が動いた。腰のあたりに、細長い差込口のようなスリットがあった。
その形は、ディスクとぴたりと一致する。
人間の体にあるはずないそれに差し込む。
世界が、歪んだ―――
ははは!テラーノベルはやめたかとおもったか?残念!まだあるんだなぁこれがwww by inuineco