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夜に目が覚めた。
スマホには1:30の文字が浮かんでいる。…少し、部屋を出ることにした。
冷気が満ちる廊下にはザァザァと打ちつける豪雨の水声だけが響いている。まるで、何かに共鳴するかのように此処を包む夜の闇にガラス窓からは一寸の光も入らない。
ーふと、煙草の匂いがした。
「……遊宵先生?」
ゆっくりと此方に顔を向けたその人はへらりと笑っているのだろうかー。
「あは。…眠れないの?」
「…ええ」
遊宵先生は半分程開いたガラス窓の窓枠に体をもたれかけていた。その指先で煙草の煙が風に揺らいで散っている。
「これは黙っててね」
無邪気な声色なのにその声は何処か淋しく空間に溶ける。
「廊下での二人の会話、聞いてましたよ 」
「……」
「あれは、…よくある事ですか?」
「…そうだねぇ」
「それでも、続けるんですか?」
「…そうだねぇ」
「それは…一番苦しくて、一番勇気のいる生き方ですね」
「…なんで?」
「最後に傷付くのは、生徒じゃなくて貴方だからです。…どんなに寄り添っても、何も還ってこないかもしれない。それどころか大きな傷みを負うかもしれないのに」
「…あは。そんな格好いいもんじゃないよ、僕は。それに、あんなのは慣れっこなのよ」
「それは…嘘ですね。『あは』って言うの、遊宵先生が何かを隠すときじゃないですか」
「え」
「…どんな気持ちであっても押し殺すべきじゃないです」
「……」
「私もそうだったんです。自分には何の取り柄も無くて、人一倍頑張るしかない。自分を顧みずに頑張ることが己の価値だと。…だけど、違いますよね。他人にために生き続けるは、自分を騙し続けることには、限りがあるじゃないですか。上手くいかなくてどうしようもなく苦しいときがあるじゃないですか。…慣れるわけないですよ。その感情を見ないフリすることに慣れちゃだめです。…だから、そういうときは遊宵先生も相談してほしいです。誰かに吐き出してほしいです。私じゃ頼りないかもですけど、同じ人間同士お互いさまってことですよ 」
遊宵先生は窓の外を見つめていた。煙草の匂いは消えている。代わりに柔らかで落ち着いた雨の匂いがした。