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一回戦終了後。『選手控え室』では。


「ふぅー、なんとか倒せたけど、正直、危なかったなー」


鎧《よろい》を解除したナオトが長椅子に座った時の第一声がそれだった。(ブラストもそこに座っている)


「確かに危なかったが、俺の出番がなくて何よりだ」


「まあ、それはそうなんだけどよ」


「なんだ? 何か言いたそうだな?」


「いや、別にそんなことは……」


「言いたいことがあるなら、はっきり言え。その方がすっきりするぞ?」


「……まあ、それもそうだな。あのな、右目と右腕に違和感があるんだよ」


「なに? それは試合が始まる前か? それとも後か?」


「後だな」


「そうか……。よし、では少しテストしてみよう。ナオト、今、俺が立たせている指の数は何本だ?」


「えーっと、三本か?」


「正解だ。では、次は左目を隠してやってみろ」


「ん? あ、ああ、分かった」


「それじゃあ、今、俺が立たせている指は何本だ?」


「えーっと、六本だ」


「正解だ」


「えっ? 今の合ってるのか?」


「ああ、正解だ。俺はお前の目の前に三本、指を立たせていた。それと同時に俺はもう片方の手を背中に回して、三本、指を立たせていた。だから、六本だ」


「え、えーっと、つまり俺の右目は……」


「お前の都合に合わせて、物体がすり抜けて見えるようになった……ということだな」


「でも、両目で見たら、いつも通りに見えるぞ?」


「原理はよく分からないが、おそらくそういうものなのだろう。まあ、日常生活を送る上では問題あるまい」


「そっか。サンキューな、ブラスト。それとついでに俺の右腕も頼めるか?」


「もちろんだ。よし、それじゃあ、あの壁に貼り付いている『マッハエ』を捕まえてみろ」


「『マッハエ』? なあ、ブラスト。『マッハエ』ってなんだ?」


「その名の通り、音速で動くハエのことだ」


「えー、なにそれ。捕まえられるわけないじゃん」


「いいから、やってみろ」


「はぁ、分かったよ。けど、あんまり期待するなよ?」


俺は壁に張り付いている『マッハエ』のところに行くと、わっ! と『マッハエ』を驚かせて、わざと飛び立たせた。

普通の人間なら、素手で『ハエ』を捕まえることはほぼ不可能だろう。

だが、俺の右腕は音速で動くはずの『マッハエ』の動きを完全に予測し、先回りした。

そして、小石をキャッチするかのように、いとも簡単に『マッハエ』を捕まえてしまった。

俺は右手を開いて中身を確認すると、両手を擦り合わせている『マッハエ』の姿があった。

俺はブラストの方に行き、ブラストにもそれを見せた。


「ふむ。やはり、お前の右目と右腕は先ほどの試合で進化してしまったようだ」


「え? それはどういうことだ?」


「お前も今、体験したはずだ。明らかに人間離れした動きだったと」


「ま、まあ、それはそうだけど」


「いいか? ナオト。お前がこれ以上、先ほどのような戦い方をすれば、明らかに人ではない何かになってしまう。だから、もうあんな無茶はするな」


「そ、そんな怖い顔するなよ」


「それは無理だ。なぜなら、これは、お前の将来に関わることだからだ」


「そんな大袈裟《おおげさ》な。俺はこの通り、ピンピンしてるぞ?」


「そういう問題ではない。とにかく一度、医者に診《み》てもらった方が……」


「ナオト選手、ブラスト選手。二回戦が始まりますので闘技場に向かってください」


ブラストが言い終わる前に、係員の人がやってきて二回戦が始まることを俺たちに伝えてくれた。

俺たちは適当に返事をして。


「ブラスト、お前の忠告はありがたいが、この大会で俺とお前のこれからが決まるのはわかってるよな? だから……」


「はぁ……俺は確かに忠告したからな。何があっても俺は一切、責任はとらないぞ」


「ありがとな、ブラスト。そんじゃあ、行くか」


「ああ、そうだな」


こうして俺たちは、二回戦に出場するために闘技場へと向かった。



同時刻。同会場内の医務室では。


「それで? あなたたちはなぜ大会に出場していたの?」


開会式の挨拶《あいさつ》で白いローブを身に纏《まと》い、目の周りを白い仮面で隠していた身長『百六十センチ』ほどの真顔の女性は『|完璧なる変身《パーフェクトチェンジ》』で変身した、ナオトの高校時代の先生『アイ』であった。

先生は合体して一人になった『少年五人』……いや合体して一人になった『五帝龍』の頭以外をロープでぐるぐる巻きにした状態で質問した。

それに対して、彼らは。


『俺たちはあんたのところに行きたくて、空から探してたんだ! けど、俺たちでさえ、どこにいるのか分からないくらいの不可視の結界のせいで探知できなかったから暇つぶしに、この大会に出場したんだよ!』


「そんなことはどうでもいいのよ。それよりも、あなたたちはさっき私がこの世で唯一、愛している人を傷つけたわよね?」


え? あんなやつのことが好きなのか?


『そ、それは仕方ないだろう! あいつが俺たちと戦いたいって言ったんだから!』


「だとしても『ショタ状態のナオト』と戦うのに身長が百五十センチになるまで、力を解放することはないでしょう?」


『で、でも!』


「でも、じゃない!!!」


『ひぇっ!!』


「まったく、困ったものだわ。まあ、あなたたちが『五帝龍』だってことは、はぐれモンスターチルドレン討伐隊司令の『オメガ・レジェンド』以外、気づいてなかったようだから、そこは安心ね。けど、本当に二回戦に【アレ】を出す気なの?」


『あんたは【アレ】が危険すぎるから、この会場の近くに封印してたんだろう? なら、この際、|ナオト《あいつ》に倒してもらった方が良いだろ?』


「確かに、ナオトのあの力なら【アレ】を倒せるかもしれないけど、【アレ】は人間を殺すことしか考えていない危険な存在よ。ナオトでも倒すのは容易ではないわ」


『え? そうなのか? でも、もう二回戦は始まっちまったぜ?』


「大丈夫よ。ナオトにもしものことがあったら、あなたたちの体を八つ裂きにして、ナオトの体に移植すれば元に戻るのだから」


『……は、はは、そうならないことを期待するぜ』


さて、今、話していた【アレ】とはいったい。

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