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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第91話 〚 人混みの中で、名前を呼ばれた回〛
― 澪視点 ―
廊下は、思っていた以上に混んでいた。
修学旅行三日目。
部屋に戻る時間が重なって、
クラスも、他のクラスも、
人、人、人。
「……あれ?」
振り返った時には、
もう遅かった。
さっきまで一緒にいたはずの
海翔も、玲央も、湊も、
えま、しおり、みさと、りあも――
誰も見えない。
(はぐれた……)
胸が、少しだけ苦しくなる。
大丈夫。
すぐ見つかる。
そう思って一歩進んだ、その時。
「澪」
名前を呼ばれて、
体が一瞬、固まった。
振り向くと、
そこにいたのは――
真壁恒一。
「一人? ちょうど良かった」
距離が、近い。
人混みのせいで、
逃げ場がない。
「ね、今日さ」
軽い声で、近づいてきて
「手、繋いで行こうよ」
――頭が、真っ白になる。
冗談なのか、
本気なのか、
分からない。
「え……あの……」
どう断ればいいか、
言葉が出てこない。
心臓の音だけが、
やけに大きく聞こえた、その瞬間。
「やめろ」
低い声が、割り込んだ。
真壁恒一の後ろから、
現れたのは――
西園寺恒一。
「嫌がってるの、分からないのか」
空気が、変わる。
真壁恒一が振り返り、
二人の間に、
ピリッとした沈黙が落ちた。
(……助かった?)
そう思った自分に、
少し戸惑う。
西園寺くんは、
私の方を見て、
「こっち来い」と短く言った。
でも――
その一歩を踏み出す前に。
「澪!!」
聞き慣れた声が、
人混みの向こうから飛んできた。
振り向くと、
海翔。
その後ろに、
海翔の友達もいる。
一瞬で、
足が勝手に動いた。
「……っ」
海翔が、
私の前に立つ。
何も言わず、
でも確実に、
間に入る。
真壁恒一と西園寺恒一が、
同時にこちらを見る。
三人の視線が、
交差する。
「何してた」
海翔の声は低く、
静かだった。
真壁恒一は、
「別に」と言い、
西園寺恒一は、
舌打ちをして視線を逸らす。
誰も、
先生には気づかれなかった。
でも――
私は、分かってしまった。
さっきまでの不安が、
一気に現実になったこと。
海翔は、
何も聞かずに、
ただ「行こう」と言ってくれた。
その一言で、
やっと、息ができた。
人混みを抜けながら、
私は一度だけ、
後ろを振り返る。
二人の恒一は、
どちらも、
こちらを見ていた。
(……はぐれたの、偶然じゃなかった)
そう思った瞬間、
背中に、
冷たいものが走った。