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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第92話 〚助けられたのに、安心しきれない〛
― 澪視点 ―
部屋に戻るまでの道。
海翔は、
私の少し前を歩いていた。
振り返らない。
でも、
ちゃんとそこにいる。
それだけで、
さっきまで締めつけられていた胸が、
少しだけ楽になる。
……はずだった。
なのに。
(なんで……)
足はちゃんと動いているのに、
心だけが、
遅れてついてきているみたいだった。
助けてもらった。
確かに。
真壁くんの手が伸びる前に。
西園寺くんの視線に縫い止められる前に。
海翔が、来てくれた。
それなのに。
安心、できない。
部屋のドアが閉まる音がして、
やっと、
外と切り離されたのに。
私は、
その場に立ったまま、
少しだけ動けなかった。
「……澪?」
えまの声で、
我に返る。
「大丈夫?」
私は、
すぐに笑おうとした。
「うん、大丈夫」
でも、
その言葉は、
自分に向けた嘘みたいで。
ベッドに座ると、
やっと気づいた。
手が、
少し震えている。
(助けられたのに)
頭の中で、
その言葉が何度も回る。
助けられた。
守られた。
なのに、
怖さが消えない。
真壁くんの声。
近すぎた距離。
西園寺くんの目。
助けるはずなのに、
逃げ場を変えただけみたいな圧。
そして――
二人を同時に見た、
あの一瞬。
私は、
誰を怖がっていたんだろう。
誰に、
助けられたかったんだろう。
考えようとすると、
胸の奥が、
じわっと重くなる。
「澪」
名前を呼ばれて、
顔を上げる。
海翔だった。
さっきまでと同じ、
何もなかったみたいな顔。
でも、
目だけが、
少しだけ真剣で。
「……もう大丈夫だから」
その言葉を聞いた瞬間、
なぜか、
涙が出そうになった。
大丈夫。
そのはずなのに。
(もし、また一人だったら)
そんな考えが、
勝手に浮かんで、
すぐに消えない。
私は、
ぎゅっと、
シーツを握った。
守られている。
それは、
確かなこと。
でも――
守られなきゃいけない状況が、
まだ終わっていない気がした。
安心できない自分を、
責めることもできずに。
私は、
そのまま、
何も言わずに座り続けた。
心の奥で、
小さな警報が、
鳴り止まないまま。