コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
頭を抱えた幾ヶ瀬。「話が全然進まないぃ!」と歯ぎしりしている。
埒があかないと、ダッシュでコンビニに行き「ほかほかの白きもの」を二つ買ってきた。
ほくっと齧り付いた有夏の前に正座し、ようやく本題に入ったのだった。
「問題は俺が呪われたかもしれないってことだよ。聞いてるの、有夏!?」
「ひいれるひいれる。もごもご。れもほろわれたらあれじゃね?」
──聞いてる聞いてる。もごもご。でも、呪われたらアレじゃね?
暗号のような返事を頭の中で解読しながら、この緊張感のなさに三度頭を抱える思いだ。
「あのね、有夏。このれ……レイ……オ、オバケは俺のパソコンを狙ってきてるんだと思う。だからとりあえず、しばらく電源は入れないようにしようよ」
「やらよ。ありかはらいれんはつびゃいのげーむのりょうほうを……」
──やだよ。有夏は来年発売のゲームの情報を。
「あといくひぇ、霊っていわるにオバケっていうのはこひゃいから? 霊っていうのがこひゃいから?」
──あと幾ヶ瀬、霊って言わずにオバケって言うのは怖いから? 霊っていうのが怖いから?
「ああ、不思議なことに霊って言葉だけハッキリ聞こえる。やっぱり俺は呪われてしまったのか……」
もごもごと肉まんを食べ終えた有夏は、いたく満足そうに指をぺろぺろ舐めていた。
チラリと見やるのは手を付けられていないもう一つの「白きもの」だ。
「もう少し食べる? お腹こわさない? 晩ごはんちゃんと食べられる?」
「お腹だいじょうぶ。晩ごはんもだいじょうぶ。ちゃんと食べる」
「ほんとに?」
呆れたような苦笑いで、幾ヶ瀬が肉まんを半分に割った。
大きいほうを差し出すと、有夏は旨そうにもふっとかぶりつく。
「へっひょくアレれひょ。うひるひゅかにゃにか」
「くっ、またこの会話か!」
口の中いっぱいに頬張りながら喋るものだから、今回の解読はかなり困難だ。
──結局アレでしょ。ウイルスか何か。
「ウイルス? いやいや、待ってよ、ウイルスってことないでしょ?」
怖々といった様子でパソコンに視線をくれてから、幾ヶ瀬は結局残りの半分の白きものも有夏にやった。
「ひゅーっ」と奇声をあげて、齧りつく有夏。
「いくれがヘンなひゃいとばっかりみへるへいれアレコレこうなっらんらね?」
──幾ヶ瀬が変なサイトばっかり見てるせいでアレコレこうなったんじゃね?
「変なサイトなんて見てないよ! 見て……ないよっ?」
語尾が少々弱い。自信なさげに何度も「いや、見てない……見てないよな?」と繰り返しているうちに、気楽な「能力者」は肉まんを食べ終わったようだ。
前回から食べたくてたまらなかったのだろう。念願の肉まんを、しかも二つも平らげて満足げなご様子。
しつこいくらい指をペロペロ舐めている。
「じゃあ、アレじゃね? ユーチューバーイクセの怨念チャンネルの怨念が今ごろになって降りかかってきたんじゃね? 知らん知らん。有夏は知らん」
「怨念チャンネルって、いつの話だと思ってるの!? それに結局、アレは配信できてないし。てか有夏、知らんとか言わないでよ!」
「いや、知らん。有夏は知らん」
ホラー系ユーチューバーを目指し夜の学校に忍び込んだのは、よく考えたら19話も前の出来事なのだ。
夜の学校の雰囲気に呑まれ、あげく有夏に脅かされて失神したっけ。
「そうだ、失神したのは生まれて初めての経験だった……」
遠い目をして呟く幾ヶ瀬。
やっぱり地道に働くしかないんだとユーチューバーになる夢を諦めたのも含めて、苦い思い出だ。
そんな幾ヶ瀬の前で、有夏が声を低めた。
「そうだ。あのとき屋上にいた女の人が幾ヶ瀬について来て、それでパソコンに入ったのかもしれぬ。それは……」
「それは……何?」
「それは……おまえだっ!」
「ぎゃあああっ!」
見れば有夏はケラケラと笑っている。
腹を抱え、涙を浮かべ、それはそれは笑い転げているのである。
「……有夏、今の脅かせ方は古典的すぎるよ」
「でも怖かっただろ」
「やめてよね……。また失神したらシャレにならないから」
ニヤニヤと嫌な笑みを崩さない有夏。
隙あらばまた「それは……お前だー!」とやるに違いない。
思えばコイツにはそういうところがあったと、幾ヶ瀬の表情が険しくなった。
風呂に入っているときに驚かせてきたのは何話のことであったか。