戦いの終焉。神楽一刀斎の力が冥王を打倒したその後、篠田の体がついに限界を迎える。激しい戦闘を乗り越えたその瞬間、彼は膝をつき、深く息をついた。その背後で、静かに沈みゆく夕日の光が彼を照らす。
「神楽一刀斎、最強の剣豪…その力は、もう…」篠田は顔を上げると、空を見上げた。その目には、やるべきことは終わったという安堵感と共に、神楽一刀斎の力を完全に引き出しきったことに対する哀愁が漂っていた。
だが、その時、突然、篠田の耳に人の声が届いた。
「……篠田。」
その声に振り向いた篠田の目が大きく見開かれる。その声の主は、彼がかつて一度だけ会ったことのある男――佐藤亮だった。
佐藤亮――数学者の名前を聞いた者は少ないだろう。彼はかつて世界的に著名な数学者で、難解な数学理論を解き明かすことで名を馳せていた。だが、篠田にとっては、どれほど凄まじい人物であっても、どこか異次元の存在でしかなかった。だが、今目の前にいる佐藤亮は、篠田が知る数学者の姿そのものではなく、どこか不思議な雰囲気をまとった一人の男だった。
「……亮?」篠田はその名前を呟き、立ち上がる。目の前に立つ佐藤亮の姿には、どこか異様なまでの威圧感が漂っていた。普段の印象とは打って変わり、彼の目に宿るものは、まるで時間と空間を超越した力のようなものを感じさせる。
「久しぶりだな、篠田。」佐藤亮は、篠田の無言の問いに答えるように、ゆっくりと近づいてきた。「あの時、お前が使った力は、俺が残した…いや、受け継いだものだ。」
篠田はその言葉に驚く。「受け継いだもの?お前が?」
「そうだ。俺が長年追い求めていた“理論”を、最終的に理解したのは、君のような戦士に力を授けることだった。」佐藤亮はその言葉に重みを持たせるように続けた。「君が戦った神楽一刀斎の力、あれはただの力ではない。それは、我々が作り上げた数学的な“形”だ。」
篠田はその言葉の意味をすぐに理解できなかった。だが、亮が言う「数学的な形」という言葉が示唆するところには、深い謎が隠されているように感じられた。
「でも、亮…お前、どうしてここに?」篠田は疑問を口にする。「お前が数学者だってことは知っていたけど、何故こんな場所に現れたんだ?」
佐藤亮はしばらく黙っていたが、やがて静かに答える。「君が冥王と戦った結果、あの力の“爆発”がこの場所に影響を及ぼすことを予見していた。」彼は少しだけ苦笑を浮かべる。「実は、君の戦いは予定通りだったんだ。」
篠田は驚きの表情を浮かべる。「予定通り?それってどういうことだ?」
「君の戦いがどれほど過酷でも、終わりを迎えることを想定していた。だが、その先に待つものが、俺の理論を確立するためには必要だった。」佐藤亮は真剣な眼差しで篠田を見つめた。「君が神楽一刀斎の力を使いこなせたことで、ようやくその“形”を完成させることができたんだ。」
篠田は少し考え込む。「じゃあ…神楽一刀斎の力を引き出すこと、それ自体が君の目的だったのか?」
佐藤亮は頷く。「その通り。君が使ったあの力、神楽一刀斎の異能は、ただの戦闘力ではない。君が戦うことで、神楽一刀斎という存在を時間軸上で具現化することができた。それが、俺が探し求めていた“完成形”だったんだ。」
「でも…神楽一刀斎はもう、死んだんだろ?」篠田は少し寂しそうに言った。
佐藤亮は冷静に答える。「そうだ。神楽一刀斎はもう過去の存在だ。だが、その力は永遠に残る。君の中に。」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!