テラーノベル
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思わず出ようか躊躇してしまう。
でも、ここで無視したら余計に気まずくなるだけだと思い直し、通話ボタンを押した。
するとすぐに五木の声が聞こえてきた。
その声はいつもより少し低く、少し焦っているような感じがした。
私は恐る恐る口を開く。
「ご、五木…?」
すると五木は間髪入れずに言った。
「…っ、!やっと出たな」
その声には、安堵の色が含まれていた
私は少し躊躇ってから、沈黙を破った。
「な、なんなの、さっきから」
「……お前が連絡つかねぇからだろ」
「そ、それは五木が…っ」
五木は小さくため息をついた後、静かな声で言った。
「……なぁお前さ、あの日俺が他の女子と歩いてるとこ見たんだろ」
五木の声は、いつもより優しい気がした。
私はその声に促されるように、ゆっくりと話し出す。
「私…五木が浮気したりするような奴じゃないってわかってるんだよ。でも私と会えないのにあんな場面見たら、腹立つし自信もなくしちゃって…っ」
「大体五木が悪いんだよ…?!」
少し強めに言うと五木は珍しいくらいどこか切なげで、寂しそうな声で言った。
「悪かった…あいつはバイト仲間で、でもプライベートでも付きまとってきやがって、昨日も道端でたまたま遭遇して引っ付かれてただけだ。」
「そこをお前に見られちまうし、絶ってぇ誤解させたと思ったんだ。結局お前に嫌な思いさせちまったし………ごめん」
その声はとても冷静で、淡々としていたけれど
どこか切羽詰まった様子が伝わってくる。
(なんだ…よかった、ていうかそれも、そうだよね。だってあの五木なんだから、そんな薄情な男じゃないし…!)
その独白に安堵している自分がいる。
五木が嘘をついているようにも見えないし
五木がこんなに素直に謝ってくるなんて珍しくて
「そう、だったんだ」
私が思わずそう呟くと、五木はホッとしたように息を吐いた。
そして少し間を置いてから五木に聞いた。
「じゃあ…私に飽きたとか、遊びってわけじゃないのね?」
「あったりめぇだわ」
強い語気でそう言われると、私は余程安堵したのか
電話越しにクスッと笑みを零した。
「何笑ってんだよ」という五木のバツが悪そうな声を無視して
「ねえ五木、罰としてさ?今日は私と寝落ち通話してよ」と軽く言ってみせる。
絶対に誘うことはないし
五木に言っても断られるだろうと思っていたこと
罰を口実に誘ってやった。
「あ?寝落ち通話?」
「そう!罰として、私が寝るまで通話してってこと」
嫌そうな声で拒否するのかななんて思ってたら
「…わーったわ」
存外、満更でもない感じ?
一言で了承してきて拍子抜けしてしまった。
「あれ、もっと嫌がるかと思った…意外」
「別に。罰だろ、大人しく受けるわ」
五木は淡々と答えながら「で?寝落ち通話ってずっと通話繋げときゃいいんかよ?」と聞いてきた。
私はえっと、と少し口籠もりながら「うん、それだけ」と、照れくさくなりながら言った。
すると五木は、ふーんとだけ言ってから 少し間を置いたあと、私に言った。
「───大お前となら通話ぐらいずっとしてられるわ。」
その声があまりに爽やかで、私はその言葉を聞くと、思わず顔が熱くなるのを感じた。
(……っ!)
不意打ちでそんなことを言われてしまい動揺するけれど
それを悟られないように必死に平静を装う。
「な、なにそれ……っ」
「元幼馴染だしな」
五木は淡々と言うけれど、私はなんだか気恥ずかしくて何も言えなくなってしまう。
(元って……急に彼女扱いしないでよ、なんか恥ずかしいじゃん…!)
すると五木が思い出したように言った。
「あ、そうだ。お前さ、14日の始業式の後ってヒマか?」
「え……?うん、特に予定ないけど……」
「じゃあちょっと付き合えや」
「いいけど…」
私は訝しげな顔でスマホをベッドサイドに置いた。
そうして、私たちはいつもの調子で他愛もない話を繰り広げる。
「ていうか五木、夏休みの課題やってる?」
「あ?当たり前ぇだろ、つーかもう終わったわ」
「ええ!うそ、五木って私と同じでギリギリにするタイプかと思ってたんだけど?」
「バカにしとんのかアホが、お前とはちげぇんだわ。」
「はあ?私だってもう終わりそうだし!」
「重要なのは休み明けのテストで赤点とるか取らねぇかだろ」
「う…っ、そういう五木はどうなのよ?」
「満点以外ありえねえな」
「……お、教えてくれない?私マジで今回赤点とったら進級できないし…っ!!」
「だろうな。俺に教わりてえなら、なんかアイス奢れや」
「か、彼女からお金取る気?!」
そうして、私たちはいつも通りの会話をして笑い合う。
(……うん、やっぱり五木と話してるときが一番楽しいな)
私は心の中でそんなことを思いながら時を過ごす。
数時間後…
いつの間にか夜も更けてきていた。
私は欠伸をしながら携帯の左上に表示される02:17を見て言う。
「時間経つの早いね…眠っ」
すると五木がそれに反応して言った。
「俺より先に寝んな」
「えー眠い」
「したいって言ったんお前だろーが」
「でも言っとくけどこれは罰だから、私のこと不安にさせたの重罪だし」
「へいへい…」
結局私は3時頃には寝落ちてしまった。
翌朝目覚めると、携帯の画面には通話終了画面が出ており
「10:07:15」と書かれていて、10時間もしていたことに驚くと同時になんだか嬉しくなる。
なんだかんだ言いつつも、私が寝た後にずっと繋げててくれたんだなって思うと、頬の緩みを抑えられなかった。
(本当に素直じゃないんだから…私のこと大好きじゃん…)
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