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サイド キリ
廃工場は高いフェンスで囲まれている。
そして、その入り口では成人男性が二人立っていた。
「どうする?正面からいく?」
『いや、それはまずい。トキを人質に取られる可能性がある』
私の提案にマオがスマホ越しに答えた。
タエとマオは拠点で私たちをサポートしてくれる。二人は運動はあまり得意じゃないらしい。
『後ろにフェンスが破れている場所があるから、そっちから行くほうがいいかも……』
「ああ、了解だ。キリ、俺についてこい」
「んー。じゃあ俺は残って揺動させとくかー」
あっという間に作戦が決まってしまった。
すごいなあ、と感心していると「そうだ。キリに渡すの忘れてた」とキノから銃を手渡された。
……銃?
「ええっ?!な、なんで銃なんて持ってるの??!!」
「ルネが作ってくれた」
「つくったぁ??!!」
「モデルガン改良しただけだけどねー。実弾はでないから、安心して撃っていいよ♪」
「撃てるか!」
うっそでしょ?!
どんだけ万能なの、この団は。
「…常識を求めた私が間違ってた」
「まぁ、俺らは正義の味方(ヒーロー)じゃねぇからな。これぐらいは目ぇつむってくれ!」
キノがイタズラっぽく笑う。
…しょうがないなあ。
「行こう。ルネも気をつけて」
「準備できたら連絡してね〜」
そう言ってルネは手を振って私たちを見送った。
うーん、緊張感皆無なんだけど。
私、今から本当に誘拐犯と対峙するんだっけ??
フェンスの中に入って、忍び足で工場に近づく。
「どうやって工場内に入るつもり?」
窓からは紫色のジャージを着た青年が手足を縛られたまま殴られている様子が見える。
おそらく、あの青年がトキで間違いないだろう。
突入したい気持ちをなんとか抑えながら私はキノに聞いた。
「ルネから合図があったら、窓から侵入するぞ」
……窓から、デスカ。
「っていうか、合図って」
ドッゴオオン!!と私が言い終わらないうちに大きな爆発音が聞こえた。
「いいっ?!」
「合図だ!」
ドンドンドンドン!と四連発銃弾を窓にめり込ませ、綺麗なスライディングでキノは工場内に入っていった。
「な、なんだ?!」「誰だ、テメェ!!」
動揺した男達がそう言っている間に、キノは二人の鳩尾に拳を入れる。
「モンダイジ団団長、キノだっ!!」
「ああ、もう!」
私も窓から入って残っていた男達に蹴りを入れていく。
もうどうにでもなれ!
「わーお。俺の出番なかったねー」
誘拐犯を全員気絶させたところでひょっこりとルネが顔を出した。
絶対タイミング覗ってたよね?
「お前もこいつら集めんの手伝え!!」
「はいはい」
そんな二人の会話を聞き流しながら、私はトキの縄を解いた。
「大丈夫?」
「……はい。どうもありがとうございます」
トキは疲れた笑顔を顔に浮かべる。
「とりあえず、拠点に戻るぞ。ケガの手当てとかしたほうがいいだろうしな」
「いえ、そこまでしていただくわけには……」
キノがそう言うとトキは慌てて手を振る。
そのときに、トキが顔をしかめたのを私は見逃さなかった。
「ちょっとごめんね」
「!!」
グイッとトキのジャージの袖をめくる。
するとトキはばっと私の手を振り払った。
「「「!!!」」」
腕には、沢山の痣や刺し傷、やけどの痕があった。
しかも、昨日今日でついた傷じゃない。明らかに昔からある傷だった。
「…虐待、か……」
泣きたいのか、動揺しているのか、困っているのか……いろいろな感情が混ざった複雑な表情で彼は笑った。