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「そういうとこ嫌いだ」
その言葉が落ちた瞬間。
空気が裂けた。
迷いが消える。
一歩、踏み出す。
今度は、ためらわない。
腕を掴まれる。
強く。
「…絶対に俺の方が岩ちゃんのこと」
廊下がざわつく。
例の子が息を呑む。
「好き」
真正面から。
逃げない声。
「選ばれたいんじゃない。俺が選んでる」
胸が、強く打つ。
これを、待ってた。
ずっと。
でも。
例の子も、引かない。
「それ、今まで何人に言いましたか?」
静かな声。
刺さる。
及川の指が、一瞬だけ強張る。
「岩泉くん」
例の子がこっちを見る。
「私は、ちゃんと一人だけです」
迷いがない。
「逃げません」
胸が揺れる。
比べてしまう。
軽さと、重さ。
不安と、安心。
及川は言葉を探してる。
今までの自分の言動が、全部足を引っ張ってる顔。
その沈黙が、答えみたいで。
ゆっくり、及川の手を外す。
「岩ちゃん……」
声が、弱い。
初めて見る顔。
でも。
「……ごめん」
例の子の方を見る。
「今は……、正直、安心できる方に揺らいでる。」
廊下が静まり返る。
及川の顔から血の気が引く。
「今は」って言ったのは、自分でも卑怯だと思う。
でも、今は。
怖い。
もう壊れたくない。
例の子の手を、取る。
温かい。
迷いがない。
背中に、視線が刺さる。
振り向かない。
振り向いたら、戻るから。
数日後。
体育館裏。
夕方。
呼び出された。
来ると思ってた。
及川徹 が立ってる。
前より少し痩せた気がする。
笑わない。
「みんなに笑われちゃった笑」
「当たり前だよね」
沈黙。
「俺さ」
空を見上げる。
「今まで、誰も失う前提で付き合ってた」
胸が痛む。
「追わないのがかっこいいって思ってた」
小さく笑う。
でも、弱い。
「でもさ」
視線が、こっちに戻る。
真っ直ぐ。
「失うの、こんなに怖いんだね」
喉が詰まる。
「岩ちゃんに選ばれなくて、やっと分かった」
近づいてくる。
でも、触れない。
「俺の今までが、全部信用なくした」
否定できない。
「だから」
深く息を吸う。
「もう一回、ちゃんと告白する」
逃げない目。
「好き。」
軽さゼロ。
「今度は、失う前提じゃない」
拳を握る。
「追うし、離さない努力もする」
震えてる。
強がりじゃない。
本気だ。
「すぐ信じなくていい」
苦笑する。
「俺が悪いから」
静かな声。
「それでも、もう一回だけ、チャンスください」
夕日が差す。
廊下で奪いに来た男とは、別人みたいだ。
余裕も、計算もない。
ただ、必死。
胸が、ぐちゃぐちゃになる。
今すぐ抱きつきたい。
でも。
簡単に戻ったら、また同じだ。
「……時間くれ」
やっと言う。
及川が、少しだけ目を見開く。
「すぐ戻らねぇ」
正直に。
「でも、嫌いになったわけじゃない」
その一言で、及川の呼吸が止まる。
「証明しろ」
視線を外さない。
「俺が選んで後悔しねぇって」
沈黙。
そして。
及川が、ゆっくり頷く。
「うん」
今までで一番、素直な顔。
「今度は俺が選ばれる側になる」
夕方の風が吹く。
終わってない。