時間をくれと言ったあと。及川は、本当に努力してる。
でも。
例の子と帰る帰り道。
ふと見える。
体育館前で女子に話しかけられてる
及川徹 。
断ってる。
ちゃんと。
でも、笑顔はある。
「まだ好きなんだよね?」
例の子が小さく言う。
図星だ。
「……わかりやすい?」
「うん」
優しい声。
その優しさが、刺さる。
数日後。
及川がまた告白してくる。
「もう一回、ちゃんと好きだって言わせて」
本気の目。
でも。
その夜、例の子からメッセージ。
“私は逃げないよ”
迷いがない言葉。
安心する。
及川は、強くて弱い。
例の子は、揺れない。
選んだのは自分なのに。
まだ、心は揺れてる。
放課後。
及川が言う。
「俺、待てるよ」
震えながら。
「何年でも」
その必死さが、痛い。
でも。
信じるには、まだ怖い。
例の子と帰る道。
隣は、静かで安心する。
無理に笑わなくていい。
疑わなくていい。
「まだ好きなんだよね?」
あの日の言葉が、頭に残ってる。
否定できなかった。
数日後。
体育館裏。
呼び出された。
立ってるのは
及川徹 。
目の下に、うっすら影がある。
「岩ちゃん」
まっすぐ見る。
逃げない。
「俺、全部断ったし、切った」
静かに言う。
「連絡も、遊びも、曖昧なのも」
拳が震えてる。
「証明にならないの分かってるけど」
息を吸う。
「それでも好き」
重い。
逃げ道のない“好き”。
胸が痛む。
「……遅ぇよ」
本音が漏れる。
及川の顔が歪む。
「うん」
否定しない。
「遅かった」
沈黙。
夕方の風。
「でも待つ」
即答。
「岩ちゃんが俺を選ばなくても」
その言葉に、胸がざわつく。
“選ばなくても”?
「……諦めんのかよ」
苛立ちが滲む。
「諦めない」
目が強い。
「でも奪わない」
その線引きが、余計に苦しい。
優しくなってる。
ちゃんと変わろうとしてる。
だからこそ、揺れる。
その夜。
例の子から電話。
「岩泉くん」
柔らかい声。
「無理しなくていいよ」
言葉が詰まる。
「私は逃げない」
安心する。
心が静かになる。
でも。
静かなだけだ。
ドキドキは、しない。
最低だと思う。
数日後。
廊下で、及川と目が合う。
何も言わない。
でも目が追ってくる。
“待つ”って目。
例の子と並んで歩く背中に、
その視線が刺さる。
限界が来るのは、岩泉の方。
放課後。
体育館に戻る。
誰もいない。
と思ったら。
壁にもたれてる
及川徹 。
目が合う。
一歩近づく。
「もうやめろ」
思わず言う。
「待つとか、優しくなるとか」
喉が震える。
「余計無理だ」
及川が息を呑む。
「俺は」
視線が揺れる。
「安心より、お前選びたい」
口に出して、理解する。
ずっと揺れてたのは、
信じられるかどうかじゃない。
傷つく覚悟があるかどうか。
「でも怖ぇ」
正直に言う。
及川の目が、熱を帯びる。
「じゃあ一緒に怖がろうよ」
一歩近づく。
触れない距離で止まる。
「俺も毎日怖い」
笑わない。
誤魔化さない。
「また失うかもって」
その目は、本気だ。
前みたいな余裕はない。
「それでも好き」
沈黙。
鼓動だけうるさい。
例の子の“安心”が浮かぶ。
及川の“不安”が重なる。
放課後、校舎裏。
例の子を呼び出した。
逃げたくなかった。
「話ある」
声が少し震える。
でも、目は逸らさない。
例の子は静かに頷く。
「……及川くんのこと?」
図星すぎて苦い。
言おうとした瞬間。
「岩ちゃん」
背後から声。
振り向く。
息を切らして立っているのは
及川徹 。
「空気読めません?」
例の子の声は冷たい。
でも及川は止まらない。
「読まない」
まっすぐ俺を見る。
逃げない目。
「岩ちゃん、俺、ちゃんと好きだよ」
断言。
心臓が大きく跳ねる。
例の子が一歩前に出る。
「でも選んだのは私です」
強い声。
「私は逃げません」
腕を軽く掴まれる。
温かい。
安心する温度。
及川が近づく。
今度は、触れない。
でも距離が近い。
「俺は逃げた」
低い声。
「軽くしてきた」
否定しない。
「だから信用ないのも分かってる」
拳を握る。
「でも好き」
余裕ゼロ。
誤魔化しゼロ。
「岩ちゃん、俺を選んで」
真正面。
例の子が震えながら言う。
「私は泣かせません」
優しい声。
「大事にします」
胸が締めつけられる。
両方、本気だ。
両方、真っ直ぐ。
でも。
「……俺」
息を吸う。
震える。
「安心で決めたら、きっと後悔する」
例の子の目が揺れる。
「…………ごめん」
はっきり言う。
「俺、及川が好きだ」
沈黙。
風の音だけが通る。
及川の言葉に揺れたわけじゃない。安心な人を選んで後悔するわけが無い。でも、いつの間にか前よりもっと好きになっていた。”及川徹”を
例の子の手が、ゆっくり離れる。
数秒。
下を向く。
震えてる。
それでも、顔を上げる。
涙が光ってるのに、笑う。
「悔しい」
正直な声。
胸が痛い。
「でも」
一歩下がる。
「今の本気だもんね、ずるいよ」
及川を見て、そして俺を見る。
「ちゃんと幸せにしてあげてね」
震えてるのに、強い。
「もし泣かせたら、許さないから」
及川が、真剣に頷く。
「絶対」
軽さゼロ。
例の子が小さく笑う。
「悔しいけど」
涙を拭く。
「幸せになってね」
それだけ言って、背を向ける。
強い背中。
最後まで、強い。
胸がぎゅっとなる。
及川が小さく息を吐く。
そして、俺を見る。
「岩ちゃん」
今度は、ゆっくり手を伸ばす。
俺から掴む。
逃げない。
「次やったら終わりな」
真顔で言う。
及川は即答。
「うん」
少し目が赤い。
「もう逃げない」
夕日が落ちる。
今度は奪ったんじゃない。
ちゃんと選んだ。
その重さを、二人とも分かってる。






