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#料理男子
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「は、ハッピーバスデー、です。あ、いや、ハッピーバースデー、イブ?」
何を言ってるのか自分でも、バカな発言だなと思いつつも彼の胸に押し付けた。
「え、俺に?」
喬一さんの視線が紙袋の中へ向けた後、私の方へ再び向ける。
その蕩けんばかりの、くしゃくしゃの顔を見たら、私は全身の熱が顔に集中してしまうほど真っ赤になっていた。
「困ったな。家だったら抱きしめられたんだけど。抱きしめていい?」
「いや、他にお客さんもいるから無理です、中身なんですが、本当普通の――」
「いや、自分で開けて確かめたい。ここで開けいい?」
「はい」
外国では、包装を豪快にびりびり破って開けるのが贈ってくれた人への感謝の意味になるらしいけど、喬一さんは丁寧に開ける。喬一さんの長い指先が丁寧にゆっくり開いていくのが、私には大切にしてくれているようで本当に嬉しかった。
「……可愛いね」
笑いを含みながら、取り出したお弁当箱を見て彼が言う。
もうゴムパッキンもよれよれで、使い込んでいるようだったあのお弁当箱。一度、新しいのにしないのかと聞いたら、私があげたものだからと言っていた。
可愛いお弁当箱の方が、妻がいるとアピールになるとも言っていた。
高級時計だって、ブランド物のスーツだって、持っている物は全て極上でいいものばかりなのに、だ。
なので今度は、アンティークショップで見つけた洋書の形をしたお弁当箱。有名な外国のデザイナーの作った人気商品らしい。
「ありがとう。お弁当が楽しみになるね」
「いえ。ほんと細やかですが。あと、もう一個……」
まだ紙袋の中に大きな包みがある。こっちは私の願望がつまってる。
「これは、重箱?」
「はい。喬一さんの御節が食べたいんです。お姉さんが自分より喬一さんの方が上手って言ってました」
「あの人は全く」
と言いつつまんざらでもなさそうだ。うちは母が好きな割烹料理屋に頼んでいるので、手作りは初めてだったりする。
「甘いデザートがあるなら頑張って作るけど、どうかな」
「えー、喬一さん甘いもの苦手ですよね」
「紗矢は特別に決まってるだろ」
お弁当箱を大事そうに持ちながら、こっちを見てにやけている。
だが大事そうに仕舞いながら、少し残念そうに溜息を吐いた。
「でもちょっと残念だよなあ」
「何が、ですか」
「誕生日だと黙っていて、当日焦った紗矢を見るのも悪くないなと思っていたんだ」
「ええ、酷いです」
私が少し大きな声を出すと同時に、オーナーが階段を上がってこっちに向かってくる。
白石さんの持っているお皿から、焼き立てのパンのいい香りがしていた。
「プレゼントが欲しいわけじゃなかったんだ。ただ俺のために慌てふためく紗矢は可愛いだろうなと」
「意地悪な発想ですから、それ」
真っ赤になって反論するが、白石さんがいる手前、抑え気味だ。
「おまたせしました。あー、っと勝手に見てすいません、それ俺の好きな人の洋書シリーズだ」
お皿を並べながら、白石さんがお弁当箱を覗き込む。
どうやらシリーズもので、尚且つベストセラーになった洋書をお弁当箱にしているらしい。
「まああげないけどね。見るだけ見せてやろう」
「お前なあ、そうやってすぐクールぶって」
白石さんに肘でうりうり攻撃されても、澄ました顔で紙袋に仕舞い、グラスを受け取りワインを注いでもらっている。
喬一さんは彼の前でも少しクールぶっているらしい。
「メインのラム肉はもう少しで持ってくるから、こっち食べて待ってて。グリッシーニに生ハム巻いた奴。生ハムはフルーツにも合うんだけど、メロンとかキウイとかもだけど野菜にも」
「ぶっ」
白石さんが説明を終える前に、片手で顔を覆って噴出した。
「喬一?」
「いや、ふふ。そうそう。生ハムはなんでも合うよね。うちの妻がよく料理に使うんでつい、」
「い、意地悪!」
えいっとテーブルの下で足を蹴ろうとしたらからぶってよろけてしまった。
その姿もツボに入ったらしく、大笑いだ。
白石さんは驚いた様子で、厨房に戻りつつ、喬一さんの笑う姿を見ている。
喬一さんは家ではよく笑うんだけど、人前ではこんな風に笑わないのかな。