昨日、明日は休みだと伝えられた。
普段忙しい探偵社は理由がない限り急な休みは取らない。
他の皆んなは何時も通りなのに、僕だけ元々非番でもないのに休みになった。
矢張り役立たずだと思われたからだろうか。
落ち込み乍ら帰ると、鏡花ちゃんが晩御飯を用意してくれた。
胃に入りそうもなかったが、折角用意して呉れたのだから、悲しませたくないから、最低限でも食べなくてはならない。
鏡花ちゃんが好きであろう物を分けてあげ、その他のものを流し込む様に飲み込んだ。
その日はさっさと風呂に入り、直ぐに布団に寝転んだ。
頑張って寝ようと思うが、夢を見たくない恐怖からなのか何なのか、上手く眠れない。
時間は経っていくばかりで、襖を開け、時刻を確認してみると、何時の間にか四時になって居た。
外はまだ暗い。
もう一度布団に倒れてみるが、どうも寝れない。
その時、聞き覚えのある声と言葉が頭をよぎった。
ー棄てられる前に、逃げて仕舞えば良いと思いますよ。
その言葉は、考えずとも理解出来ていた。
それが一番、自分を守れる選択肢なのは判っていた。
だが、自分を認めてくれた探偵社だ。 棄てる筈ない。
そう信じていた。
…彼奴何かの仲間には、ならない…。
色々考えて眠れないうちに、時刻は五時近くになっていた。
少し気分をよくしたく、鏡花ちゃんが寝ている事を確認して、外の空気を吸いに、外に出た。
何時もの、探偵社が呉れた、あの服で。
外に出ると、夜明けが近いてきていた。
だが外はまだ暗く、昼の横浜とは全く違く、しんと静かで人気もなく、冷たい空気だ。
行く宛もなく歩いて行く。
この横浜と云う街に独り、歩いている。
目的も、行きたい場所も何もないので、ただ見憶えのある道を彷徨っている。
結構歩いて来ただろうか。
ぼーっとし乍ら歩いていたら、こんな処まで来て仕舞ったみたいだ。
僕が餓え死寸前の所で太宰さんに拾われた、探偵社との出会いのきっかけともなる、その場所。
太宰さんと出会った川。
その川には空に浮かぶ冷たい満月が反射して映っている。
水月だ。
敦は独り、川と空を眺めて居た。
月を睨む。
そして考えて居た。
「探偵社に棄てられて仕舞うかな」
「探偵社に棄てられたら如何しよう」
何度も考えた事だ。
何時まで経っても答えは出ない。
「探偵社が僕を棄てる筈がない」、「矢張り探偵社にも捨てられて仕舞う」そんな曖昧に二択の考えが頭の中でグルグルする。
…先程、二択と云ったが、もう一つ僕の中で一瞬、過ぎった事があった。
莫迦みたいな選択肢だ。
ただ、ほんの少しだけ、一瞬だけ。
「フョードルの仲間になる事」
僕はハッとして、独りで首を横に振った。
_何を考えているんだ、僕。彼奴の方がよっぽど信用できない。
彼奴の方が利用して、裏切るような奴だ。
そして僕は一度考えるのを止めた。
水面に映る月と、空に光る月を睨んで。
そして、月に向かって吠えた。
誰かにこの苦しみが判ってもらえないかと。
孤独を感じつつある白虎は息が出来なくなる程に吠えた。
明るくなり始める横浜の空は、自分と同じいろをしている。
僕と云う、世界で一番嫌いな奴の瞳と同じ。
朝焼けの空に浮かんだ名残りの月をもう一度睨む。
最悪の組み合わせだと思って仕舞った。
視界が滲み、歪んでいた。
探偵社が僕を如何思っているのか何て、簡単な問題であろう。
でも、愚かな僕は、その答えが判らない。
答えを探そうとして、考えれば、頭が爆発しそうになる。
あの、暖かい探偵社が、あの、優しい探偵社が、僕を棄てる筈ないのに…。
僕に優しくしてくれて、認めてくれた、探偵社が…_。
でも、確かにこんな役立たずで、穀潰しで、塵の様な僕は、みんなにとって、如何でもいいのかな。
こんなに未熟で、弱くて、異能を上手く操縦出来ない僕なんか…。
あんなに強い探偵社にとって足手纏いでしかないか…_。
横浜を背景にして光った一滴の滴が、真っ黒なズボンを濡らした。
「矢張り横浜は美しいですね。月に朝焼け、これ等は貴方によく似ている」
突然、後ろから聞こえた声。
何度も訊いた声だ。あれから、ずっと。幻聴で。
優しい声色で話しかける、その男はフョードル。
「白く、淡く輝いているけれど、何処か寂しい。そんな月です。貴方に似て居る」
僕は振り返り、顔を覗いた。
それは、優しく、捨てられた子犬を見ている様なものだった。
「御早う御座います。」
その声色と表情は相変わらず優しかった。
恐ろしいほどに。
「ところで、…何故、泣いているのです?」
っ……。
「…お前には、関係ない」
「そうですか?」
フョードルはとぼける様に目を丸くして云った。
「ですが、大体の予想は付きますよ、本当に単純な事ですから」
如何せ_
「探偵社に棄てられる、なんて事で悩んでいるのでしょう」
そうだ。合っている。
けど、……。
僕が言葉を発す前に、フョードルが云った。
「“探偵社が僕を捨てる筈ない”。…それでは、キリがありませんよ」
それはそうだけど、…。
でも、僕には判らないんだ。
探偵社が僕を棄てるか否かなんて…
「探偵社の方々は貴方を棄てます」
っ…、!
「最近、失敗ばかりしているそうじゃないですか。何でも、この間何て、… 」
「五月蝿い!!」
…。
「…嗚呼、すみません。長々と話すのは申し訳ないですね。僕も貴方も、暇ではないですし」
嗤いながら云った。
「簡単に云うと、探偵社は貴方を足手纏いだと思っている。きっと棄てるでしょう。もし敵と戦って居たら、貴方何て棄て置いて、先に進んで仕舞うでしょうね。」
…。
視界が滲み、そして歪む。
自分の今の顔は判らないが、きっと酷い顔をしている。
僕は絞り出した声で云った。
「…でも…探偵社に棄てられて仕舞ったら、僕はまた独りぼっちだ。また、異能を制御出来なくて、災害指定猛獣に戻って、…もし捕まったら、…。それに…」
…。
「…では。僕が貴方を必要としてあげます。いや、僕は“貴方を必要として居ます”。」
手を差し伸べられる。
「僕の仲間になる気は、ありませんか?」
其奴の瞳は、真っ直ぐ僕を見ていた。
其奴は、確信しているのだろう。僕がその手を取ると。
…此奴なんかの、仲間にはならない。
そう、思った。
でも_
ー探偵社と云うだけの役立たず
ー役に立たない穀潰しは社には要らん
ーこんな事も出来ないの?
ー貴方なんかに守られなくても平気
もし、皆んなが本当にそう思っているのなら…。
僕はフョードルを睨んだ。
此奴は信用出来ない。
仲間に何て、ならない。
そう思って居た。
フョードルの差し出した手を見た。
僕は、その手を、_
取った。
〜あとがき〜
皆んな、ハロー。
八月に入りましたね。
私は夏休みの宿題も結構余裕があるのでぐーたらしてます。
話が変わるんですが云わせてください。
この話一話はわりと良かったんだけどなぁ😭二話から…。
まぁ完結できる様に努力しますよ!!!!
あぁ、そうそう、この話の中に山月記と同じ文がちょーっとあったんですけど、判ります?
いやまぁ判らないですよね…判りにくいし、…判ったら凄いわ…。
自分が読者だったら絶対判らん。
んじゃばいばーい。
あ、グッド・バイ。
コメント
38件
忙しすぎて見れなかった...、、、 ゆーかがち最高すぎ!!
こんばんは!初コメとブクマ、フォロー失礼します(* . .)))最高すぎてここまで一気読みしてきました!!!!自分、敦推しなのでわぁわぁ言いながら読んでましたw素敵なストーリーをありがとうございます!続き頑張ってください!応援してます✊🏻📣 ̖́-
私フョードルとニコライが好きなので嬉しいです! 今回も最高でした!(≧∀≦) 続き作るの頑張って下さい! \(๑╹◡╹๑)ノ♬ガンバレ♡