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イリスの砂嵐が止むと、虫人たちが倒れ伏していた。
虫人たちの脳裏でバルメロイの命令が反芻される。
「砦を崩せ、オークを招け」
たとえ首が飛んでいようとも、命じられたことに変わりはない。
武器を取り、立ち上がると。上空から無数の矢が降り注いできた。
矢は手足を執拗に狙い、虫人の群れを大地に縫い止めていく。
虫人がいかに肉体の限界を超えようが、肉体に依存していることに変わりはない。
手が止まれば武器を持てず、足が止まれば前進できない。
「虫人対策だが、頭部は狙うな。頭蓋骨は硬く。少し揺れれば外れてしまう。狙うなら手足だ。まずは足からだな」
アーカードの言葉を思い出しながら、防壁の中でルーニーが号令を下す。
虫人たちを蹴散らした近接部隊はこれを放置。先にいるオークたちめがけて前進を続けている。
「弓兵部隊、第二部隊と交代! 第一部隊は休息を! 第三は引き続き矢の補充だ!」
「虫人の機動力を削ぎ次第、アーカードさんの援護に回るぞ!」
兵力の分断には成功した。
後はオークの始末だが、ルーニーはオークをどう倒すか聞かされていない。
戦力差は大きいはず、一体どうやって。
「アーカードさん、オークが見えて来ました。数およそ600!」
「こちらの3倍か。構わん、突き進め」
奴隷兵は少し驚いた顔をして、「はい」と応える。
この奴隷兵もオークを倒す方法を聞いていない。
防衛任務だというのに、アーカードは蹴散らした虫人を放置してさらに前進している。
本来ならその場で砦を守るべきだが。
そこまで考えて奴隷兵は考えるのを止めた。
アーカードさんがやることだ。何か理由があるのだろう。
自分のような奴隷が無駄に考えるより、賢い者に従った方が物事はうまくいく。
何も考える必要などないのだ。
「なんだ。不安そうだな」
「いえ、そんなことは」
不安がる奴隷兵にアーカードが続ける。
「いいか、今回の勝利条件はオークの群れの中心部にイリスを投げ込むことだ」
驚いた奴隷たちがイリスを見ると、奴隷におんぶされたイリスがダブルピースしていた。
まるでお菓子をもらった子供のような笑顔だ。
「し、しかし。そんなことをしたらイリスが」
「イリスを放り投げたら、全員戦線を離脱しろ。巻き込まれるからな」
確かに、防衛せずにオークの群れに突貫し、中心部にイリスを投げ込むだけならば3分の1戦力でも可能だろう。
近隣の村を手当たり次第に襲い、陵辱の限りを尽くしたオークに少女を投げ込む?
それで、どうなるのですか?
「それでどうなるかだと?」
「単純なことだ。この戦争が終わる」
皆は納得したような顔をするが、不安がる奴隷兵には理解が及ばない。
イリスを見ると、なんだかウキウキしていた。
先ほどの砂嵐を呼んだのもこの少女だ。
また不思議な力で敵をやっつけてくれるのだろうか。
いや、だとしても無傷というわけにはいくまい。
もしかしたら、命懸けの自爆攻撃なのかもしれない。
もう少し、あの子と話をしていればよかったな。
そんなことを思っていると、ルーニーの矢が頭上を越えてオークに降り注ぎ始めた。