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アラームの音で目が覚めた。
時刻は4時半ごろ。
まだ朝というには早すぎる時間帯だ。
昨夜の雨のせいで湿った空気が、窓を開けると部屋に入り込んでくる。
目を閉じて、深く息を吸い込む。
「……朝の匂いがする」
今になってわかった、とか言ったらみどりはどんな顔をするだろう。
今更?俺はとっくにわかってたけど?なーんてマウントを取って来そうだ。
「朝の散歩、行きますかぁ…!」
白い花束を抱えてまだ寝ぼけてぼんやりしてる通りを歩く。
前まで競うように立てられていた看板は見る影もない。
きょーさんの話によると、あの一件以来、誰からともなく看板を撤去したらしい。
「おはよう、みどり」
森の深いところに新しく建てられた休息所の近くに小さな花畑があって、その真ん中に緑のお墓がある。
みどりが死んでしまった直後に気を失った俺が死を受け入れられなくなって、自分に都合のいい夢の中に閉じこもっている間にできたらしい。
「今日は少し寒いけど、空の色はなかなかイイ感じの色じゃない?」
お墓に花束をお供えして、少し話してから館に戻る。
…あの約束はまだ続くらしい。
・ ・ ・
まだ静かなリビングのテーブルに、一冊の本を広げる。
まだ書きかけのそれをぼんやり眺めていると、起きて来たみんなが揃って覗き込んだ。
「らっだぁにしては珍しいやん…日記?」
「そうだよ…あー、小説の方が近いかも」
羽ペンを置きながら答えると、きょーさんは俺の向かいの席に座って物珍しそうに書きかけの本を見ていた。
「ねぇ、完成したら呼んでもいい?」
「レウがぁ?ちゃんと呼んでくれんの?」
そう茶化すと、ちゃんと読むよ!とぷんぷん怒るレウもきょーさんの隣に座って、俺が続きを書くのを待っていた。
「どんな物語なの?ファンタジー?推理系?」
「んーん、違うよ」
コンちゃんが座ったタイミングで最後の一文を書きとめる。
インクが乾いたのを見計らって本の表紙にペンを走らせて署名を済ませた。
「これはねぇ_」
俺の、みどりのの。
気味の悪い夢の話、だよ。