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この日。
バラエティ番組の収録を終えた目黒と佐久間は、個室がある居酒屋へ来ていた。
「お疲れ。」
「お疲れさま。」
ジョッキを軽く合わせる。
仕事の話。
最近ハマっている料理の話。
メンバーの近況。
他愛もない話で盛り上がっているうちに、気付けば二人とも程よく酔っていた。
佐久間が焼き鳥を頬張りながら笑う。
「そういえばさ。」
「あべちゃんと、どうやって付き合ったの?」
その質問に、目黒は一瞬だけ手を止めた。
「……あぁ。」
グラスを見つめながら、小さく笑う。
「多分、長くなるよ。」
「今日は時間ある。」
佐久間も笑った。
目黒は少し昔を思い出すように天井を見上げる。
「あべちゃんさ。」
「絶対に人へ弱音を吐かない。」
「悩んでても笑ってる。」
「人に迷惑を掛けるくらいなら、一人で抱え込むタイプ。」
「頑固だし。」
「優しいし。」
「それが本当に厄介だった。」
佐久間は「分かる」と何度も頷く。
「本当にそう。」
目黒は少し笑う。
「付き合うまで、本当に苦しかった。」
グラスへ残った氷を静かに揺らす。
「あの頃は必死だったな。」
「今思えば。」
「そんな気持ちも懐かしい。」
目黒の視線は、自然と遠くへ向いていた。
___________
初めて阿部と話したのは、まだジュニアだった頃。
阿部は誰に対しても優しかった。
年下にも。
年上にも。
スタッフにも。
目黒にも。
誰かが困っていたら、当たり前のように手を差し伸べる。
その姿を見ているうちに、自然と目で追うようになっていた。
一目惚れだったかと言われると、少し違う。
見た目から好きになったわけではない。
気付いたら。
人柄に惹かれていた。
(こんな人になりたい。)
最初はそんな憧れだった。
でも。
一緒に仕事をする時間が増えるたび、その気持ちは少しずつ変わっていく。
阿部が笑えば嬉しい。
阿部が疲れていないか心配になる。
自然と隣にいたいと思うようになっていた。
仕事で立ち位置を決める時も。
楽屋でも。
移動中でも。
気付けば阿部の隣を選んでいた。
「また目黒、阿部くんの隣じゃん。」
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三文小説
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笑われても気にならなかった。
隣にいるだけで安心できたから。
___________
そして。
目黒、康二、ラウールの三人が新しくグループへ加入が決まった時期。
三人とも緊張していた。
自分たちを受け入れてもらえるのか。
ちゃんと馴染めるのか。
不安ばかりだった。
そんな時だった。
「緊張するよね。」
阿部が優しく笑って話しかけてくれた。
「俺、三人が馴染めるように全力で頑張るから。」
「分からないことあったら何でも聞いてね。」
その一言だけで、張り詰めていた空気が少し和らぐ。
康二も。
ラウールも。
ほっとした表情を浮かべていた。
阿部は特別なことをしたつもりはなかったのだろう。
でも、目黒にとっては違った。
(やっぱり。)
(この人は優しい。)
(好きだな。)
その気持ちは、もう憧れではなかった。
一人の人として。
本気で好きになっていた。
___________
グループへ加入してから、デビューまでの間。
目黒は、自分なりに何度も阿部へ気持ちを伝えようとしていた。
とはいっても、はっきり「好き」と口にしたわけではない。
仕事で一緒になれば、できるだけ隣へ行く。
楽屋では阿部の近くの席に座る。
移動の車でも、空いていれば迷わず隣を選んだ。
阿部が飲み物を買いに行けば、
「俺も行きます。」
と後を追った。
少しでも長く一緒にいたかった。
二人だけで話せる時間が欲しかった。
ただ、それだけだった。
「阿部くん。」
「今度、二人でご飯行きませんか?」
何度も誘った。
阿部は忙しかった。
大学院での勉強の成果もあり、仕事も増え始めていた。
それでも目黒が誘えば、予定を確認して時間を作ってくれた。
「この日なら大丈夫だよ。」
そう言って、いつも優しく笑ってくれた。
最初に二人で食事へ行けた日は、朝から落ち着かなかった。
仕事が終わってから何を話そうか。
どんな店なら阿部が喜ぶだろう。
服は何を着ればいいのか。
考えすぎて、何度もスマートフォンで店の情報を確認した。
目黒にとっては、ほとんどデートのようなものだった。
向かいの席に阿部がいるだけで嬉しかった。
目が合って笑ってくれるだけで、期待してしまった。
もしかしたら阿部も、自分と二人でいることを特別に思ってくれているのではないか。
そんな小さな期待を、どうしても捨てられなかった。
けれど。
次の日になれば、阿部は何も変わらなかった。
「昨日、目黒とご飯行ったんだ。」
メンバーへ、ごく普通の出来事のように話していた。
照れることもない。
隠すこともない。
二人だけの特別な時間だったと思っていたのは、目黒だけだった。
阿部にとっては、かわいい後輩と食事をした。
ただそれだけ。
目黒にも優しかった。
康二にも優しかった。
ラウールにも。
佐久間にも。
渡辺にも。
誰に対しても同じように笑って、同じように話を聞き、同じように気を配った。
それが阿部の好きなところだった。
分け隔てなく人へ優しくできるところに、目黒は惹かれた。
それなのに。
その優しさが、ときどき苦しかった。
自分だけに向けられたものではないと分かってしまうから。
休憩中。
阿部が深澤と楽しそうに話していた。
二人にしか分からない昔の話で盛り上がり、肩を揺らして笑っている。
別の日には、ラウールの隣で何かを教えていた。
顔を近付け、同じ画面を覗き込みながら話している。
康二の相談には、仕事が終わったあとも長く付き合っていた。
目黒は離れた場所から、その姿を見ていた。
胸の奥が、静かに痛んだ。
阿部が笑っていることは嬉しい。
メンバーと仲が良いことも分かっている。
誰も悪くない。
それでも。
(俺の隣で、一番笑ってほしい。)
そんなことを考える自分が、嫌だった。
独占できる立場でもない。
気持ちを伝えたわけでもない。
嫉妬する資格など、どこにもなかった。
だから目黒は、何も言わずにまた阿部の隣へ行った。
「阿部くん。」
「この服、どう思います?」
話す理由を作り、少しだけ距離を縮める。
阿部はいつも通り、優しく答えてくれる。
「いいんじゃない?」
「目黒に似合うと思うよ。」
その何気ない一言だけで、また嬉しくなってしまう。
そして同時に、虚しくなる。
何度隣に座っても。
何度食事に誘っても。
何度分かりやすく特別扱いしても。
阿部は気付いてくれなかった。
いや。
もしかすると、気付いているのかもしれない。
気付いていながら、気付かないふりをしているのではないか。
そんな不安さえ浮かぶようになった。
阿部は頭がいい。
周囲の変化にもよく気付く。
誰かが少し疲れていれば、すぐに声を掛ける人だった。
そんな阿部が、自分の視線にだけ気付かないはずがない。
仕事中も。
楽屋でも。
移動中も。
ずっと追いかけている視線に。
隣にいようとする不自然なほどの執着に。
どうして気付いてくれないのだろう。
それとも。
気付いても、応えるつもりがないから黙っているのだろうか。
その答えを確かめる勇気は、まだなかった。
もし拒まれたら。
今の関係さえ失ってしまうかもしれない。
阿部の隣へ行くことも。
二人で食事へ行くことも。
優しく名前を呼んでもらうことも。
全部できなくなるかもしれない。
それが怖かった。
だから目黒は、曖昧なアプローチを続けた。
いつか阿部が気付いてくれることを願いながら。
いつか自分を、ほかのメンバーとは違う存在として見てくれることを願いながら。
けれど、デビューの日が近付いても。
二人の関係は、何ひとつ変わらなかった。
阿部は今日も優しかった。
誰にでも向けるのと同じ、温かい笑顔で目黒を見る。
その笑顔が好きで仕方がないのに。
自分だけのものにはならないことが、どうしようもなく悲しかった。
コメント
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読んだよ〜〜〜!!😭💕 もうね、最初から最後まで胸がギュッてなった…! 目黒くんの「阿部くんが誰にでも優しいから好きになったのに、その優しさが自分だけじゃなくて苦しい」って気持ち、すごく伝わってきたよ…。あのデートみたいな食事の翌日に阿部くんが普通に話してるシーン、読んでてこっちまで切なくなった🥺 「隣にいる理由を探してる」感じとか、「独占できる立場じゃないのに嫉妬してしまう自分が嫌」って心情、もう完全に片思いのリアル…! 次どうなるのか気になりすぎる〜!! 続き待ってます📖💫