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デビューの日が近付くにつれて、目黒の中には焦りが生まれていた。
今でさえ、二人で会える時間は少ない。
デビューすれば、仕事はもっと増える。
歌番組。
雑誌。
ライブ。
取材。
それぞれの個人仕事。
きっと今よりもずっと忙しくなる。
そうなったら。
阿部と二人で食事へ行く時間すら、なくなってしまうかもしれない。
(このままじゃ。)
(何も伝えられないまま、終わる。)
そんな不安が日に日に大きくなっていった。
目黒は、今までよりも分かりやすく阿部へ気持ちを向けるようになった。
楽屋で隣へ座るだけでは足りない。
肩が触れるくらい近くへ行く。
移動中に眠そうな阿部がいれば、
「ここ使ってください。」
と自分の肩を差し出した。
仕事が終われば、自然なふりをして背中へ腕を回した。
「今日もお疲れさまでした。」
そう言いながら、ほんの少しだけ長く触れる。
阿部は驚くこともなく笑った。
「目黒もお疲れさま。」
その反応は、やはりほかのメンバーへ向けるものと変わらなかった。
佐久間に抱きつかれても笑う。
康二に肩を組まれても笑う。
ラウールに甘えられても、優しく頭を撫でる。
自分だけが特別ではない。
分かっているのに、何度も期待してしまった。
___________
ある日。
撮影の待ち時間。
阿部が隣へ座った。
目黒は意を決して口を開く。
「俺、阿部くんのこと好きです。」
できるだけ軽く。
冗談にも聞こえるように。
それでも、本心だけは隠さずに言った。
阿部は少し驚いたあと、優しく笑った。
「ありがとう。」
そして、いつものように続ける。
「俺も目黒のこと好きだよ。」
胸が大きく跳ねた。
けれど。
すぐに分かった。
阿部の言う「好き」は、自分のものとは違う。
メンバーとして。
仲間として。
大切な後輩として。
それ以上ではない。
阿部はそのまま別の話題を始めた。
何事もなかったかのように。
目黒だけが、置いていかれた。
「好き」という同じ言葉を交わしたのに。
二人が込めた意味は、あまりにも違っていた。
___________
それでも目黒は諦められなかった。
「今日の阿部くん、すごく格好いいです。」
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三文小説
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「阿部くんといると落ち着きます。」
「ずっと隣にいたいです。」
できるだけ素直に口にした。
けれど阿部は、そのたびに困ったように笑うだけだった。
「目黒は本当に褒め上手だね。」
「ありがとう。」
「俺もメンバーといると落ち着くよ。」
また、メンバー。
また、自分だけではない。
伝えるほどに、距離を思い知らされる。
自分はこんなにも特別だと思っているのに。
阿部の中では、メンバーのうちの一人でしかない。
その事実が苦しかった。
___________
デビューを間近に控えたある日。
仕事終わり。
目黒は阿部の背中を追いかけた。
「あの。」
阿部が振り返る。
「どうしたの?」
「今日。」
目黒は一度言葉に詰まった。
断られるのが怖かった。
けれど、次に二人で会えるのがいつになるか分からない。
「ご飯、行きませんか?」
阿部はスマートフォンで予定を確認する。
少し考えてから、笑顔で頷いた。
「いいよ。」
その一言に、胸が苦しくなるほど嬉しくなった。
「本当ですか?」
「うん。」
「今日はこのあと予定ないから。」
阿部にとっては、いつもと変わらない食事の誘いだった。
けれど目黒にとっては違った。
これが最後の機会になるかもしれない。
デビュー前。
今までと同じ関係でいられる、最後の夜になるかもしれない。
___________
店へ入り、二人で向かい合って座る。
阿部はいつも通りだった。
仕事の話。
デビューへの不安。
これから九人で頑張っていきたいという話。
楽しそうに笑いながら話している。
目黒も笑って答えた。
目の前にいる阿部を見つめる。
好きだった。
優しいところも。
謙虚なところも。
自分のことを後回しにするところも。
誰にでも平等なところも。
そのすべてが好きだった。
だからこそ、苦しかった。
誰にでも優しい阿部の中で、自分だけが特別になる未来が見えなかった。
このまま何も言わなければ。
きっと阿部は、これからも変わらず優しくしてくれる。
食事にも来てくれる。
隣に座ることも許してくれる。
でも、それ以上には永遠になれない。
目黒はテーブルの下で、強く拳を握った。
もう、曖昧な言葉では届かない。
冗談に聞こえる「好き」では、阿部は振り向いてくれない。
拒まれるかもしれない。
困らせるかもしれない。
今の関係さえ壊してしまうかもしれない。
それでも。
胸に押し込めてきた想いは、もう抑えられなかった。
「阿部くん。」
目黒が名前を呼ぶ。
阿部は箸を止め、顔を上げた。
「何?」
いつもと変わらない、優しい表情。
その顔を見ただけで、逃げたくなる。
けれど目黒は、目を逸らさなかった。
今日こそ。
この人へ本当の気持ちを伝える。
ここで逃げたら、きっと一生後悔する。
そう思った。
目黒は阿部を真っすぐ見つめる。
「阿部くんに言ってきた『好き』って言葉。」
「冗談じゃないです。」
阿部の表情が少しだけ変わる。
目黒はゆっくりと言葉を続けた。
「恋愛の意味で。」
「阿部くんのことが好きです。」
部屋が静まり返る。
時計の針の音だけが、小さく響いていた。
阿部はしばらく黙ったまま、テーブルを見つめていた。
そして、小さく息をつく。
「……知ってた。」
その一言に、目黒は固まる。
「え……?」
阿部は申し訳なさそうに笑った。
「ずっと前から。」
「気付いてた。」
胸が締め付けられる。
「じゃあ……。」
「知ってて。」
「俺にあんな態度だったんですか。」
阿部はゆっくり頷いた。
「うん。」
「他のみんなと同じように接した。」
その言葉は、目黒の胸へ静かに突き刺さる。
「どうして……。」
目黒が震える声で聞く。
阿部は目を伏せた。
「俺は男だから。」
「もし付き合ったら。」
「めめにも迷惑が掛かる。」
初めて。
仕事以外で、「めめ」という名前を口にした。
目黒は一瞬だけ目を見開く。
けれど阿部は気付かないまま続けた。
「グループにも迷惑が掛かる。」
「ファンにも。」
「事務所にも。」
「だから。」
「駄目なんだよ。」
阿部は苦しそうに笑う。
「俺は。」
「メンバー全員に幸せになってほしい。」
「誰か一人だけじゃなくて。」
「みんなに。」
その言葉は阿部らしかった。
自分のことより。
仲間を優先する。
それが阿部だった。
だから好きになった。
だから、こんなにも苦しい。
目黒は静かに聞いた。
「じゃあ。」
「阿部くんの気持ちは?」
「俺のこと。」
「どう思ってるの?」
阿部は困ったように笑った。
「……どうだろうね。」
その一言で誤魔化した。
はっきりとは答えなかった。
それ以上、何も続かなかった。
目黒は俯く。
胸が痛かった。
振られた。
そう思った。
でも。
(……違う。)
少し考えて気付く。
本当に何とも思っていないなら。
阿部ならきっと、
「恋愛対象じゃない。」
とはっきり言う。
曖昧な答えなんて返さない。
優しい人だからこそ、期待させるようなことはしない。
それなのに。
今日は違った。
「どうだろうね。」
その一言だけ残した。
それは、答えを出せないということ。
少なくとも、「嫌い」ではない。
目黒は小さく笑った。
「……阿部くん。」
「一つだけお願いがあります。」
阿部が顔を上げる。
「何?」
目黒は照れくさそうに笑った。
「仕事以外でも。」
「俺のこと、『めめ』って呼んで。」
阿部は少し驚いたように目を丸くする。
「え?」
「みんな仕事の時はそう呼ぶけど。」
「仕事以外も。」
「二人の時も。」
「めめって呼んでほしい。」
しばらく沈黙が流れた。
阿部は困ったように笑いながら、小さく頷く。
「……分かった。」
「めめ。」
その二文字だけで、胸が熱くなる。
目黒は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。」
そして続ける。
「じゃあ俺も。」
「仕事以外でも。」
「あべちゃんって呼ぶ。」
「敬語もしっかりやめる。」
「少しでも特別になりたい。」
目黒は真っすぐ阿部を見つめた。
もう迷いはなかった。
「何年かかっても。」
「俺。」
「絶対に諦めない。」
阿部は驚いたように目を見開く。
目黒は穏やかに笑った。
「覚悟してね。」
阿部は困ったように笑うしかなかった。
その表情は、今まで目黒が何度も見てきた優しい笑顔だった。
まだ恋人ではない。
想いは届いていない。
それでも。
「あべちゃん。」
仕事以外で初めて呼んだその名前。
「めめ。」
阿部が初めて仕事以外で呼んでくれたその名前。
たったそれだけの変化が、目黒には何よりも嬉しかった。
恋はまだ始まったばかりだった。
コメント
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うわ、2話もめちゃくちゃ刺さった……!「知ってた」って阿部ちゃんの返し、めちゃくちゃ重いな。バレてた上で“メンバーとして”の距離を保ってたってのが切なすぎる。でも最後の「めめ」呼びと「あべちゃん」呼びの交換で、ちょっとだけ希望の光が見えた気がして良かった。絶対諦めない宣言、かっこよすぎるよ目黒…!続きが気になるわ🔥