リオンたちがロゼッタの元を訪れてから約半年の時が過ぎた。
ある日のこと、リオンがいつものように訓練をしていると、突然ロゼッタが現れた。
彼女は息を切らせながら、リオンの元へ駆け寄る。
「リオンくん!大変だ!!」
「ど、どうかしましたか!?」
リオンは驚いて尋ねる。
まさか彼女がここまで慌てるとは思っていなかったからだ。
「パン屋が安売りをしている!今すぐ買いに行こう!」
「おお」
「一人一個までなんだ。アリスくんとシルヴィくんも呼んだ。みんなでいくぞ!」
ロゼッタは興奮気味に言う。
リオンは、今の生活が好きだった。
実戦形式での修業。
ロゼッタの指導の下の効率の良いトレーニング。
彼女の依頼を受け、時には遠出をして魔物の討伐をする。
もし怪我をしてもアリスの作った薬で治療をする。
そんな生活だった。
そんなある日、ロゼッタから呼び出しを受けた。
「結婚式?」
「ああ、そうだとも」
「誰のですか?」
「私とキミだよ」
「…はいぃっ!?」
ロゼッタは微笑みながら答える。
そんな彼女に対し、思わず声を上げるリオン。
あまりに唐突なことだったため、驚きを隠せなかった。
だが、ロゼッタはそんなリオンの様子など気にせず続ける。
彼女の表情からは、喜びが溢れていた。
まるで夢を語る少女のような顔をしている。
「あの、俺って何をすれば…」
リオンは何をするのか分からず戸惑っていた。
そんな彼を見て、ロゼッタは笑う。
そしてリオンのそばにたち、彼に手を伸ばす。
「ははは!冗談だ。それより今回キミとシルヴィくんに討伐してもらいたい魔物がいる」
「…」
「実は、最近魔物の動きが活発になっていてね。それで、そいつを退治してほしいんだ」
「なるほど…」
「引き受けてくれるかい?」
「はい」
「シルヴィくんにはもう連絡済だ。今回はアリスくんも連れて行くといい」
「わかりました」
こうして、リオン、シルヴィ、アリスの三人は依頼の準備を始めた。
準備を終えた数日後、ついに魔物のいる場所へと到着した。
そこは、鬱蒼とした森の奥地。
ゴールドバクトから離れた場所にある討ち捨てられた集落だ。
辺りは薄暗く、不気味さを感じる。
「うへぇ…なんか不気味なところだなぁ」
「確かにそうですね」
「まあまあ。とりあえず先に進もうじゃないか」
周囲を見渡しながら言うリオン。
アリスもそれに同意した。
シルヴィはそんな二人の背中を押して先へ進む。
しばらく進むと、開けた場所に出た。
そこには巨大なトカゲが横たわっていた。
この魔物が今回の討伐対象だ。
しかし、その魔物は眠っているのか動かない。
「あれ?寝ているみたいですけど…」
「まあ、そういうこともあるさ」
シルヴィはそう言って魔物に近づく。
そして、魔物の身体に手を触れる。
すると、彼女の手が光り始めた。
「おぉ…」
「これは…」
リオンとアリスの二人は驚きの声を上げた。
シルヴィは何かを確認するように魔物に触れたまま目を瞑る。
そして…
「間違いない。こいつが例の魔物だよ」
シルヴィは確信を持って言った。
リオンは軽くうなずく。
二人は武器を構えると、それぞれ攻撃を仕掛けた。
まず最初にリオンの攻撃。彼は剣を振り下ろす。
だが、攻撃は空振りに終わった。
「…え?」
リオンが疑問に思うと同時に、背後から大きな音が響いた。
リオンが振り返ると、そこには大穴が開いていた。
「うっ!なんだ!?」
慌ててその場から離れるリオン。
彼が立っていた場所には大きな爪痕が残っている。
よく見ると巨大トカゲのしっぽが地面に埋まっている。
池中でその尻尾を器用に動かし、襲い掛かってきたのだ。
「こいつの正式な名前は『ロックリザード』、尻尾を器用に使って攻撃をしてくるんだッ!」
シルヴィの説明を聞きつつ、リオンは再び剣を構えなおす。
相手は幻獣ロックリザード、油断はできない。
今度は慎重に近づいていく。
剣を突き出しながら、じりじりと距離を詰めていく。
リオンは剣を勢いよく突き刺そうとしたその時、突然地面が盛り上がった。
「危ないっ!!」
リオンは咄嵯に飛び退く。
直後、彼の元居たところに大きな口が現れた。
どうやら、地中から飛び出してきたようだ。
「くっそ…」
リオンは悔しそうな顔をする。
どうやら、奴は地中を自由に移動できるらしい。
再び攻撃を繰り出そうとするが、やはり避けられてしまう。
ならば、とリオンは魔法を使うことにした。
火球を飛ばしてみる。しかし、これもまた当たらなかった。
その後も様々な方法で攻撃を試みるが、どれも当たらない。
まるでこちらの動きを読んでいるかのような動きだ。
このままではラチが明かない。
「仕方がない…」
リオンは覚悟を決めた。
リオンは深呼吸をして心を落ち着かせる。
そして、剣を握り直すと、全力で走り出した。
思い切りジャンプをする。
そのまま、魔物の頭上まで飛び上がると、剣を勢いよく突き下ろした。
ズドンッという音と共に、大地が揺れる。
リオンは着地し、すぐに距離を取る。
次の瞬間、魔物の頭から血を吹き出る。
しかし魔物はまだ倒れない。
「シルヴィ!!」
リオンは叫ぶ。
「了解」
彼女はうなずき、剣で攻撃を仕掛ける。
すると、彼女の斬撃が次々に魔物を切り裂いていった。
鱗の隙間を上手く狙っているのだ。
魔物は悲鳴を上げながら暴れだす。
リオンはその隙を逃さず、再び斬りかかった。
「はぁっ!」
リオンの一撃が胴体を捉える。
魔物は断末魔の叫びを上げると動かなくなった。
「凄い堅そうな外殻だ。これで鎧とか作ったらすごいだろうな…」
ロックリザードの外殻を見ながらリオンが呟く。
岩よりも固く、それでいて加工しやすいと思われる外殻。
それをみて驚嘆の声をあげる。
「回収しますか?リオンさん」
「うん、そうしようかな」
アリスの言葉を聞き、ロックリザードの外殻を切り取るリオン。
この外殻はいろいろなことに使えそうだ。
僅かな隙間に剣を突き刺し、器用に切り取っていく。
運搬のための簡易的な処理をアリスが施す。
本格的な処理は帰ってからだ。
そして、切り取った外殻をアリスの持ってきた紐で纏め、背負うリオン。
「ふう…これで一件落着だな」
シルヴィが安堵の表情を浮かべた。
こうして、三人の活躍により魔物の脅威は去ったのであった。
その後、三人は依頼主に報告するため、ロゼッタの屋敷へと戻った。
「いやぁ、助かったよ。これであの集落にまた人が戻ってくるよ」
あのロックリザードが住み着いたせいで、あの集落に住んでいた人々は移住を余儀なくされてしまったらしい。
国益的価値も低く、辺境の地なので軍を出すこともできなかった。
しかしこれで、しばらくしたら人々が戻ってくるだろう。
「いえ、こちらこそいい経験になりました」
リオンは礼を言う。
シルヴィもそれに続いた。
アリスは何も言わなかったが、頭を下げた。
そんな三人を見てロゼッタは微笑む。
そして、彼女にしては珍しく真面目な顔つきになった。
そんな彼女の様子に気づき、三人とも真剣な眼差しになる。
しばらく沈黙が流れた後、ロゼッタは口を開いた。
「きみたちは強い。それは私もよく知っている」
「はい」
「今回のロックリザードの討伐でそれを再確認できたよ。ありがとう」
今回の討伐。
それは、三人がどれだけ強くなったかを確認するための物だった。
リオンとシルヴィは互いに高め合うことで腕を上げた。
アリスはロゼッタの指導で腕をめきめきと上げていった。
そして今回、その成果がはっきりと表れたのであった。
この短期間でこれだけの上昇率を見せるとは、三人とも天才的な才能を持っているのかもしれない。
それを見たロゼッタは確信した。
彼らは必ず強くなると。