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「お、乙女ゲーム……? 恋パラ……?」
前世の記憶が戻った時に、剣と魔法の世界だなんてゲームみたいだとは思ったが、まさか本当にゲームの世界だったとは。
「……もしかして、『恋パラ』やったことないの?」
ミアが信じられないといった顔で尋ねる。
「はい、全く。乙女ゲームというものは知ってますけど、特に好きではないので……」
「え〜! 乙女ゲームをやったことないなんて勿体なーい!」
「人の心をもてあそぶみたいで、ちょっと……」
「真面目! ……まあいいわ。乙女ゲームのこと知ってるなら、悪役令嬢って知ってる?」
「それもあんまり……。ヒロインのライバルキャラってことですか?」
「まあ、そうなんだけど……恋パラの悪役令嬢は下手すると死にます」
「えっ」
いきなりの死亡宣告にルシンダが固まっていると、ミアが慌てて補足した。
「あっ、でも、攻略対象たちに嫌われてなければ大丈夫だから! さっきの様子だとむしろ仲が良さそうだし、いざとなったらわたしがフォローするから安心して」
「あ、ありがとうございます……」
突然、見ず知らずの人から友達だとか死ぬだとか言われて混乱してしまったが、どうやら根は親切な人のようだ。自分のことをわざわざ気にして声を掛けてくれるなんて、いい人だなとルシンダが感謝していると……。
「わたし、前世の時からルシンダの見た目が大好きで、転生に気づいてからは絶対あなたを助けようと思ってたの。あと、あわよくばルシンダと攻略対象たちをくっつけたいなぁなんて……」
ミアが両手を組み合わせ、目を輝かせながら夢を語る。乙女ゲームのヒロインらしく、とても愛らしいが、流されてはいけない。
「えっと、お構いなく……。私は勉強に集中したいので。ミアさんこそ、前世の知識を生かして攻略対象と仲良くなって楽しめばいいんじゃないですか?」
ルシンダは、魔術師になって旅に出るという目標を持って、この学園に入学したのだ。決して恋愛にうつつを抜かすためではない。
しかし、ミアはとんでもない、と首を横に振った。
「わたしは夢女子じゃないから。それに、ヒロインと攻略対象の恋愛はゲームで十分堪能したから、この世界では見た目が激烈好みなルシンダと攻略対象がイチャイチャしているのが見たいの。あと、実際に恋人になるには攻略対象の過去とか苦悩が重くてちょっと……」
「……自分が恋人になりたくない人を押し付けようとするなんて酷くないですか……? というか、今の話の流れからすると、攻略対象ってアーロン殿下とライル様ということですか?」
ルシンダが尋ねると、ミアが頷いた。
たしかに二人とも美形だし、攻略対象というのも納得だ。
「ちなみに、クリス・ランカスターとレイ・トレバーも攻略対象よ」
「えっ、お兄様とレイ……先生も?」
またもや知っている人間の名前が出てきて驚いたが、この二人も間違いなく美形で、攻略対象であるというのも頷けた。
「……クリスは義兄だし、レイ先生とも知り合いですけど、イチャイチャなんて絶対無理です。倫理的によくないですよ」
「まあ、乙女ゲームではよくあることだから」
「そう言われても、今はここが現実ですから」
「……はあ、真面目な悪役令嬢ね。仕方ない、そうしたら、イチャイチャじゃなくてもいいから、普通に仲良くしているところを見せてもらえるだけでいいわ。あとはわたしの脳内で補完するから」
最後の一言が少し怖い気がしたが、それなら普通に過ごせばいいだけだから、断る理由もないだろう。
「分かりました。普通に過ごすだけならいいですよ」
「ありがとう! でも、なんだかわたしだけお願いごとを聞いてもらって悪いわね。あなたは何かわたしにしてほしいことはない?」
ミアがこてんと首を傾げて尋ねる。
してほしいこと、と言われても案外思いつかないものだ。ルシンダは、うーん、と眉間にシワを寄せて考え込み、一つだけ思いついた。
「えっと、じゃあ……お友達になる、というのはどうですか?」
最初はミアの勢いに少々引いてしまったが、せっかく出会った転生仲間なのだ。できれば仲良くしたい。それに、ルシンダにはまだ親しい友達がいなかったため、この機会を逃すのはためらわれた。
「もちろん、いいわよ! じゃあ、友達になるなら敬語は不要ね。わたしのことも、ミアって呼んで」
「わ、分かった、ミア。……よろしくね」
「ルシンダの照れてる顔、めちゃくちゃレア! 転生してよかった〜! こちらこそ、よろしくね!」
こうして、ルシンダの学園生活は賑やかに幕を開けたのだった。