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数日が経過し、今日はクラウド様と共に社交界の夜会へと足を運ぶこととなった。
鏡の中に映る自分は、まるで見知らぬ誰かのようだった。
身に纏っているのは、クラウド様が私のために自ら選んでくださった、最高級の赤いバラのドレス。
深い真紅の生地は、歩くたびに夜の闇を溶かしたような光沢を放ち、胸元には大粒のダイヤが美しく輝いている。
これほど贅沢な装いは、実家では考えられなかったこと。
嬉しいけれど、やはり気後れしてしまう。
私は、隣で完璧な正装に身を包んでいるクラウド様の袖を、おずおずと引いた。
「クラウド様……どう、ですか……?」
自信なさげに、彼を仰ぎ見る。
すると、クラウド様は優雅な所作で私の手を取り、ふっと慈しむように目を細めた。
「ふふ、心配しなくても、とてもよく似合っているよ。さすが君だ。私の目に狂いはなかったね」
迷いのないその言葉と、私を肯定してくれる優しい微笑み。
あまりにも眩しい彼の顔を間近で見てしまい、私は思わずキュンとして、顔が熱くなるのを抑えられなかった。
会場に到着すると、きらびやかなシャンデリアの光と、着飾った貴族たちの喧騒が私たちを包み込んだ。
「氷の公爵」と謳われる彼が現れると、会場の空気が一変する。
すぐに、地位のありそうなお偉い方々が、挨拶をしようとクラウド様の元へ集まってきた。
クラウド様は私の腰をそっと抱き
周囲に無言の圧をかけるように寄り添っていたけれど、やがて話が込み入ってきたのか、私に顔を寄せた。
「少し話してくるよ。すぐに戻るから待っていて」
そう言い残して、彼は紳士たちの輪の中へ消えてしまった。
私は一人、渡されたシャンパングラスを両手で持ちながら、壁際で彼の背中を見つめていた。
(やっぱり、クラウド様はどこにいても目を引く……)
離れていても、彼の存在感は圧倒的だった。
しかも、その輪の中には一層目を引く綺麗な女性もいて、そのお似合いな雰囲気に内心モヤッとした。
しかしそのとき
ふと、話し込んでいたはずのクラウド様が、こちらを振り返った。
視線が、真っ向からぶつかる。
私は心臓が跳ね上がるのを感じて、気恥ずかしさから咄嗟に目を逸らしてしまった。
◆◇◆◇
しばらくして、話し終わったらしいクラウド様が私の元へと戻ってくると
「お待たせ。……さっき、こっちを見ていたけど、一人では心細かったかい?」
少し揶揄うような、けれどどこか楽しげな声で聞かれ、私はグラスを握りしめた。
「い、いえ……! 一緒にいた女性と、すごくお似合いだったので…気になってしまって」
先ほど、クラウド様の周りには美しい令嬢たちも取り巻いていた。
彼に熱っぽい視線を送る彼女たちと、完璧な立ち振る舞いをする彼の姿が、あまりに絵になりすぎていたのだ。
私が最後まで言い切る前に、クラウド様がクスッと喉を鳴らした。
「……ヤキモチとは、可愛いね」
「そ、そんなのじゃないです……っ!」
からかわれたことに気づき、私は慌てて否定した。
顔から火が出るほど恥ずかしい。
ヤキモチだなんて、そんな子供じみた感情を抱いていると悟られるのが、何より恥ずかしかった。
けれど、クラウド様はそんな私の様子を愛おしそうに見つめると
そっと私の頭をポンポンと、優しく撫でた。
「大丈夫だよ、僕が好きなのは君だけだから」
有無を言わせぬほどの、深く、真剣な笑顔。
その瞳の奥には、私以外の女性など一寸も入り込む隙がないような、絶対的な熱が宿っていた。
「……っ」
そんな風に言われてしまったら、もう、何も言えなくなる。
私の頬は自然と緩み、彼に触れられている心地よさに身を委ねながら、小さく頷くことしかできなかった。
しばらくして談笑していると、会場に流れる音楽が華やかなワルツへと切り替わった。
色とりどりのドレスが輪を作り、夜会の花形であるダンスの時間が始まる。
「それじゃあ、一緒に踊ろうか」
クラウド様が優雅に、けれど断らせない強さを持って私の手を取った。
「えっ、でも私、あまりダンスには自信が……」
「大丈夫。君はただ、僕に身を任せていればいい」
不慣れな私は緊張で体が強張ってしまったけれど
クラウド様は私の腰を引き寄せると、驚くほど滑らかな動きでエスコートしてくれた。
彼の大きな手が背中に添えられるだけで、不思議と足取りが軽くなる。
「そう、上手だ。ほら、僕だけを見て」
耳元で囁かれる落ち着いた声に導かれ、クラウド様にサポートされながらステップを踏む。
最初は足元ばかり気にしていた私も、彼が完璧にリードしてくれる安心感から
次第に周囲の喧騒が消え、音楽と彼の鼓動だけが響く世界に没入していった。
くるくると回る視界の中で、赤いバラのドレスの裾が美しく翻る。
「……っ、ふふ。クラウド様、私、踊れてますか?」
「ああ、最高に綺麗だよ、エリシア」
不慣れなはずのダンスが徐々に楽しくなり、気づけば私の唇からは自然と笑みがこぼれていた。