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ボタンを外す仕草、車のドアをスマートに開ける手際、俺の歩幅に自然と合わせる長い足。
奇跡みたいな告白が実を結んでから、あっという間に五ヶ月が経っていた。
今の俺は、間違いなくこれまでの人生の中で一番幸せだし、一番甘やかされている自信がある。
「慧斗、これお前好きだろ」
金曜日の夜。
竜牙さんの自宅にお邪魔して、カウチソファでくつろいでいた時のことだ。
仕事帰りの竜牙さんが
買ってきた小さな四角い箱をリビングのローテーブルにことりと置いた。
「え、なにそれ。開けていい?」
「ああ。馴染みの常連の菓子職人がな、試作品だけどって持ってきてくれたんだよ」
白い箱の隙間から覗いたのは、表面がほんのりときつね色に焦げた
いかにも濃厚そうなベイクドチーズケーキだった。
フォークを入れる前から滑らかな質感が伝わってきて、俺は一瞬で目を輝かせる。
「うわ、絶対うまいやつじゃんこれ!見ただけで分かる!」
「はは、お前は本当に甘いもんが好きだな」
嬉しさを隠しきれない俺を見て、竜牙さんは目元を優しく細めて小さく笑った。
「だって、美味しいスイーツ食べると一日の疲れが全部吹き飛ぶんだもん。これ、現代社会を生きる大人の義務」
「はいはい。今切り分けてやるからな」
そう言いながら、竜牙さんはキッチンへ向かう。
ただケーキを差し出すだけじゃない。
俺が気に入っている北欧風のアースカラーの皿を棚から出し、丁寧にケーキを切り分ける。
フォークはもちろん、俺が「これ、持ちやすくて好き」と以前呟いた細身のティースプーンとフォークのセットだ。
淹れてくれたのは、カフェインレスのほんのり甘いフレーバーティー。
おまけに、「夜は冷えるだろ」と、俺の足元にふんわりとしたカシミアの膝掛けまで掛けてくれる。
しかも、その一連の動作のすべてを、竜牙さんは
「やってあげてます」という恩着せがましい雰囲気を一ミリも出さずに、呼吸をするように自然に行うのだ。
……意味が分からない。
スパダリって、漫画や小説の中にしか存在しない絶滅危惧種じゃなかったっけ。
現実に、しかも自分の彼氏として実在していい存在だったんだ。
「……ねえ、竜牙さん」
「ん?もうお腹いっぱいか?」
「……じゃなくてさ、俺のことちょっと甘やかしすぎじゃない?」
「そうか?普通だろ」
紅茶のカップを傾けながら、竜牙さんは不思議そうに首を傾げた。
「普通じゃないって。こんなに至れり尽くせりだと、俺、本気で自立できないダメ人間になっちゃうんだけど」
「別にいいだろ、俺の前くらいダメ人間で。お前、外ではいっつも気を張って頑張ってんだから。ここでくらい、好きなだけ甘えとけ」
……ほら、またこれだ。
さらっと、なんでもないことのように、俺の欲しい言葉を最大の包容力で投げてくる。
俺は一気に顔が熱くなるのを感じて、手元のケーキを見つめるフリをしてガバッと顔を伏せた。
好き。本当に大好き。
こういう、大人の余裕で俺を全肯定してくるところ、かっこよすぎて本気で心臓に悪い。
「……可愛い」
「ケーキが?」
「違う。竜牙さんが」
「急に何言ってんだ、お前は」
呆れたように言う竜牙さんの顔を盗み見ると
案の定、短い髪の隙間から覗く耳の付け根がうっすらと赤くなっていた。
#ざまぁ