涼しい風が、少し前の記憶を思い出させる。
僕は、澄み渡った空を見つめながら言う。
「ぼんさんとおらふくんは、もう行っちゃったかな…?」
一緒にいたMENは気づいたと思う。
そう、僕は2人がもう”逝って”しまったのではないかと不安なのだ。
「どうせ、俺らも行くんだし……。」
MENが顔を暗くして呟く。最近、MENは寂しがり屋だと知った。
もうすぐ、僕たちも戦場へ行かなければいけない。
まぁ、みんな経験してしまうことだから仕方がない。僕らの歳なら。
僕とMENの間に流れる空気は、どんよりとしたものだった。
それを明るくしたのは、おんりーだった。
「見てみてぇ〜。」
いつもとは違う、ちょっと甘い声。なにか嬉しいことでもあったのだろうか。
「この花、めっちゃ綺麗。」
おんりーの腕の中には10本ほどの花があった。
「え、花畑あったの?」
僕はおんりーに目を見開いて聞いた。
この世界では、空襲が酷く行き交うため、雑草1つ生えていないのに……。
「んー、花畑っていうか……。その辺にポツンと生えてたのがいくつかあっただけ。」
この前5人で行った花畑の花とは違う、茎が長くて花びらが大きい花だった。
「……なんか…。夢が1つ叶った気がするんだ……!」
へにゃ、といつもとは違う笑顔を見せたおんりー。その笑顔に、MENも僕も嬉しくなって、満面の笑みを浮かべる。
おんりーは、僕とMENを見て「何の話してたの?」と問いかけた。
僕はおんりーに、今までの話を話した。
「ふぅん。」
おんりーは、聞いたにも関わらず、興味のないような反応だった。ただ、花の香りを嗅いでるだけ。
「5人で夢を叶えるって言ったけどさぁ〜……」
MENが、ポツンと浮かぶ雲を眺めながら言った。
「俺たちが、夢を叶えられなくても……。きっと誰かが、いつか叶えてくれるだろうな。」
その言葉に、僕は少し反論する。
「”5人”で叶えるのが、僕らの夢じゃん…。」
少し拗ねてる感じに言った僕に、MENは笑って言う。
「確かになぁ、それは一理ある!」
うんうん、とおんりーも頷いている。
そう、これは僕ら”5人”で叶える、僕ら”5人”の夢なんだ。
明後日、戦場へ出発する。
ぼんさんと、おらふくんと同じ場所に行くんだ。
正直俺は、怖いと思っている。
死ぬのが怖いわけじゃないけど、”家族”が死んでしまうのが怖いわけじゃなくて。俺がもし、役に立てなかったらどうしようって。ただのお荷物になってしまったら、夢は叶えられないんじゃないかって。それが怖い。
ぼんさんとおらふくんが別れ際「またね。」って言ったのは、多分、2人は生き残るつもりなんだ。「また会おう。」って意味なんだ。
特攻隊員が生き残れる場合っていうのは、特攻隊員が乗る飛行機が不時着したり、途中でトラブルで戦場へ行けなかった場合だけ。
そんな奇跡、起こるわけない。でも、ぼんさんなら……神様に助けてもらえる。
大丈夫だと信じてるけど、やっぱり……1番怖いのは…。
“家族”と”2度と会えなくなる”ことだ。
コメント
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ウァァン
やっぱり、近くにいるメンバーが減ってしまうと皆重い空気になってしまったり、やけにいつもと違う表情をしたりしますよね...