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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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#見捨てられた
リコりす@現在熱38℃☆
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#Telamon
ありきたりな雑炊
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FORSAKENには、朝も夜も存在しない。
あるのは終わることのない薄闇と、どこか遠くで絶えず鳴り続ける悲鳴だけだった。
その領域の最奥。
誰にも踏み込むことを許されない私室だけは、不思議なほど静かだった。
小さな暖炉。
磨き上げられた古い調度品。
窓の外には紫黒の花畑。
世界そのものは地獄であるはずなのに、その部屋だけは優雅な茶会のために存在しているようだった。
その中央で、ウィザードハットをかぶった一人の青年が湯を沸かしている。
アズール。
神の血によって生まれ変わったその身体は、漆黒の肌と闇を這う触手を宿していた。
けれど。
湯を注ぐ指先だけは、あの日と変わらない。
植物へ触れていた頃と同じように繊細で、優しかった。
違うのは。
育てる花が、毒へ変わったことだけだった。
陶器の器へ、黒く乾いた葉を静かに落とす。
それはFORSAKENの大地にしか根付かない植物。
陽光ではなく怨嗟を吸い、
水ではなく絶望を養分として育つ、死の薬草だった。
湯が注がれる。
葉がゆっくり踊る。
次の瞬間。
部屋いっぱいへ甘い香りが広がった。
薔薇にも似ている。
蜂蜜にも似ている。
けれど、その香りを人間が吸えば最後。
肺は焼け、理性は溶け、幸福な笑みを浮かべたまま静かに息絶える。
それほど美しく。
それほど残酷な毒だった。
アズールは満足そうに小さく微笑む。
「……できました。」
両手でカップを捧げる。
「我が神。」
背中の触手は歓喜を隠しきれず、小さく揺れていた。
それでも主人の邪魔だけはしないよう、必死に自らを抑えている。
スペクターは静かにカップを受け取る。
白い手袋。
赤い帽子。
その仕草一つ一つが、舞台役者のように美しい。
紫がかった湯気が立ち昇る。
水面には薄く虹色の膜。
誰が見ても毒だ。
人間なら一口で命を落とす。
そんなことは、もちろんスペクターも知っていた。
彼は人間という生き物を知り尽くしている。
身体の仕組みも。
毒の巡り方も。
心の壊れ方も。
そして。
目の前の青年が、自分を害そうとしているわけでは決してないことも。
これは愛情だった。
壊れた魂が辿り着いた、歪んだ献身。
自分に差し出せる最高の贈り物が、この毒しか思い浮かばなくなってしまった。
それだけだった。
「……ありがとう。」
スペクターは微笑む。
躊躇なくカップを持ち上げる。
そのまま静かに口をつけた。
喉が動く。
一口。
また一口。
毒は神の身体へ溶けていく。
けれど何も起きない。
皮膚は爛れず。
呼吸も乱れず。
生命を終わらせるはずの猛毒は、彼にとってはただ香り高い茶葉に過ぎなかった。
やがて空になったカップが、小さな音を立てて受け皿へ戻る。
静寂。
スペクターは満足そうに目を細めた。
「実に見事だ。」
その声だけで。
アズールの肩が震える。
「君ほど植物を理解している者はいない。」
もう一言。
「世界中の毒を煎じたとしても。」
静かな笑み。
「君が淹れてくれたものなら、私は喜んで飲もう。」
その瞬間だった。
「……っ。」
アズールの膝から力が抜けた。
音もなく床へ跪く。
帽子の影から、大粒の涙が零れ落ちる。
誰にも言われたことがなかった。
美しいと。
素晴らしいと。
必要だと。
かつていた場所では、異端者だった。
愛した相手には裏切られた。
自分の手から生まれるものは、誰にとっても恐怖でしかなかった。
けれど。
この人だけは違う。
毒すら受け入れる。
怪物になった自分すら受け入れる。
その優しさが本物かどうかなど、もうどうでもよかった。
「あなた様……。」
声が震える。
「私は……幸せです……。」
アズールは主人の足元へ静かに膝を進める。
黒く染まった両手で革靴へ触れる。
壊れやすい花へ触れるように。
敬虔な信徒が祭壇へ額を寄せるように。
背中の触手だけが感情を隠せず、ゆっくりと空気を震わせていた。
スペクターはその姿を見下ろす。
慈悲深い支配者のような微笑み。
けれど、その赤い瞳の奥だけは静まり返っていた。
感動も。
愛情も。
憐憫もない。
あるのは確信だけ。
依存は完成した。
もうこの魂は、自分の言葉ひとつで歓喜し、自分の沈黙ひとつで絶望する。
これ以上ないほど従順な、美しい作品。
「立ちなさい、アズール。」
静かな命令。
「狩りの時間だ。」
アズールは顔を上げる。
涙を拭うこともなく、静かに微笑んだ。
「はい。」
その瞳には迷いはなかった。
「あなた様の御心のままに。」
帽子の影が揺れる。
その影の奥で、人間だった頃の心はもう二度と目を覚ますことはない。
暖炉の火だけが静かに揺れ、空になったティーカップの底には、飲み干された毒よりもなお深い、取り返しのつかない忠誠だけが静かに沈んでいた。