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🤦🏻♀️💛💜
💛以外の人との性的表現、💛と💜の喫煙表現ございます。苦手な方はご注意ください。
撮影終わりのままにしてたメイクもよれて、前髪は汗を吸い込んで額に張り付く。
鬱陶しくて、かき上げ整えて、煙草に火を付ける。
行為後に一服するこの瞬間は好き。
「なぁ、次いつ会える?」
あぁ、、最悪。
吸い終わるまでは浸らせてよ。そんな余韻すらくれないの?
「んー、わかんない。」
俺は適当に答える。
「何それ?来週は?」
「ほんとにわかんないの。これ吸い終わるまで待って。」
「俺もう出るよ。じゃあまたね。」
そう言ってこの人は、俺にキスをする。
このキスに何の意味があるの?
俺のこと愛してないくせに。
そんなことをいちいち考えるのも面倒くさい。
濁る気持ちは、溢れる彼の生ぬるい唾液ごと何もかも気にせず飲み下した。
彼が出て行った瞬間、たまらなく寂しくなった。
新しい煙草に火をつけて、さっきまで彼と体温を分け合っていたベッドを撫でれば、頬に涙が伝う。
またやっちゃった。
あれほど痛い思いをしてきたのに、また出会ったばかりの人と体を繋げた。
そういう始まり方に待っている恋の結末は、いつだって一緒なのに。
いつだって、俺ばかりが本気になって、相手の一方的な主導権に振り回される。
どんな時だって、都合の良い人間って立場でしか誰かの隣に立てない。
いや、隣にすら立てない。
会うのはいつだって、ホテルだけ。
甘ったるいピロートークも、愛の囁きも、綺麗なキスも、何もかも知らない。
「減るものなんて何も無いんだからいいじゃん?今が楽しくて気持ちよければ。」
いつだったか、誰かにそんなことを言われながら押し倒され、キスされたことを不意に思い出す。
いいよ?いいけど、俺にとっては結構大事なことだよ?
減るものなんて何も無いのに、いつも心の中からは大事なものが消える感じがする。
「何がそんなに気に入らないの?満更でもなさそうに善がってたじゃん。」
はいはい、わかってるよ。俺は結局そういう奴なの。
みんな体を捧げれば、一瞬だけでも俺のこと愛してくれるでしょ?
その一瞬だけでもいいから、俺はそれが欲しいの。
愛してよ。欲しがってよ。
誘うように上目で見れば、みんなその気になってくれる。
大人になってまで、好きだの付き合ってだの、そんな歯の浮くようなことなんて言えない。
これが手っ取り早くて楽なんだもん。
でも、そうやって横着して手に入れたものになんて、なんの価値もないの。
俺にだって、相手にだって、なんの値打ちもない。
一段飛ばしで駆け上がった階段に、何度もつまづいては、擦りむいた足から血を流してきた。
「さっきの人とも、もうダメかな〜」
俺の声は、安いホテルの床に落ちていった。
数日経って、収録の待ち時間に、この間バーで初めて会って、そのままホテルでセックスした彼から連絡が来た。
「今日空いてる?」
めんどくさ…。早く断ち切りたくて、渋々返信する。
「ごめん、今日は無理。てか明日以降ずっと無理。」
「は?俺のこと好きって言ったよね?」
「えー?言ったっけ?俺が好きって言ったんなら、それ多分セックスのことだと思うけど。君のことじゃない。」
「マジ信じらんねぇ。お前最悪。ヤるんじゃなかった。」
盛大に吐かれる悪態も、もう慣れた。
自分の気分のまま、会いたくないから会わないの。俺のこと、どうせ愛してないんだから、もう時間作る必要ないでしょ?
そもそも好きって何?その定義ってなんなの?そんな目に言えないもの、信じてないし、ましてや誰かになんて思わない。
今度頭の良い阿部ちゃんに、「好きの定義」とやらについて聞いてみよ。
「ねぇ、ふっか?」
「んー?」
隣に座ってお菓子を食べていた照に名前を呼ばれる。スマホを眺めながら生返事をする。
「なんか悲しそう?」
「んぁ?俺が?」
「うん。なんかあった?」
「別に?なんもないよ?」
「ふーん…なら良いんだけど……。」
なんか気まずい。照、急になんでそんなこと聞くの?
たった一回抱かれた男に「最悪」なんて言われたって、別に今更傷なんて付かない。
そばにあったティッシュで鼻をかんで、流れ出る壊れた愛を丸めて、ゴミ箱に捨てた。
「一服行くけど、照、付き合う?」
「…うん。」
煙に隠したため息は、天井まで届いて消えていった。
今日の相手は、ほんとに最悪だった。
綺麗な顔、ガタイも良くて、清潔そうだったから誘ったのに。
中出しされてお腹は痛いし、変な趣味持ってて手足に縛られた痕付くし、 ほんとに最悪。
いつだって傷付くのは抱かれる方なのに、拒めば愛してくれないんだから、愛が欲しい俺は相手が望むままに応える以外の選択肢なんて無い。
そんなのおかしくない?
事が済んだら、そいつもさっさと帰って、俺を置き去りにして行った。
次の日になっても、その次の日になっても、一週間経っても連絡が来ないから、「久しぶり、今日会わない?」と送ってみたが、一ヶ月過ぎても何も返ってこなかった。
連絡くらい返してよ…………。
寂しい、人肌が欲しい。おかしくなりそう。
手当たり次第に、今までの男に連絡をしてみても、誰一人返事なんてくれなくて、自業自得か、と自嘲した。
好きなタイプ、憧れるシチュエーション、そんなもの挙げたってキリがない。
人間なんて欲の塊なんだから、一つ手に入れれば二つ三つ、千まで欲しくなるものなの。
だったら最初から望まない。
もう、俺を「愛して」くれるなら、なんでもいい。
適当に繁華街をぶらついていたらナンパされたから、その男とホテルに入った。
別に気持ち良く無いわけじゃない。なのに全然イケない。
愛がないから?俺にもこの男にも、この部屋にも、どこにも見当たらないから?
愛ってなんなの?
埋めたかった空白が、また大きくなっていく。
この間の奴みたいに酷いプレイはしないから、辛いことも痛いことも、俺にとって減ったものなんて何もないけど、こんなことしてたってずっと寂しいだけ。
ーー結局何も得られないって、わかっててついて行ったのは俺のくせに。
わかってるよ。だって、俺そんな奴だもん。
このナンパしてきた男にぶら下がっている餌は、性欲の解放と、行為中だけの愛。そんなものに毎回毎回バカみたいに釣られてるなんて。
「ほんと、ザコだな」
煙草の煙が目に染みた。
自宅に帰ろうと、ホテルを出ると、後ろから声をかけられる。
「ねぇ。」
「…はい?」
誰?こんなホテル街で、真っ黒い格好してる。服もマスクも、靴も、全身真っ黒。
俺、ついに刺される?
いつだったか関係持ってた男か?
まぁ、ロクな死に方しないだろうな、とは思ってたけど…。
「なにしてんの?こんなとこで。」
そう言って、そいつはマスクを外した。
「ひ、かる…?」
血の気が引いた。
いつからそこにいたの?どこから知ってるの?俺のなにを見たの?
こんな場所で見つかってしまったら、もう何もごまかせない。
いつもみたいに頭が回らない。言葉が出てこない。
逃げなきゃ、照から離れなきゃ。やだ、知られたくない。
「ねぇ、ふっか。」
「なっ、な、なに…っ」
「うち来て。」
「えっ、は? ちょっと!おい!!」
照は無言で俺の腕を引っ張って歩き出した。
聞く耳なんて持ち合わせていないのか、俺の抗議を全て無視して足早に歩く。
歩くスピード早過ぎだろ。俺、体力ないんだけど?
照の家に連れ込まれ、廊下を進み、寝室のベッドに投げ飛ばされた。
逃げる隙も与えず、照は俺を組み敷いた。
「ひかるっ!マジでなに!?」
「…」
なんで何も言わないの?怖いって…。
メンバーの中でも照と一緒にいるのは一番心地がいいのに、ここで壊れちゃったら…。
俺、ほんとにひとりぼっちになっちゃう…。やだ…。怖い…。
「なんか言ってよ…」
苦しくて、怖くて、消え入るような声で懇願する。
「…俺じゃダメなの?」
「は?」
照は重苦しく、物悲しく、ただそれだけ、吐き出すように絞り出した。
言っている意味がわからない。
「前から、ふっかが知らない人とそういうことしてるの、なんとなく気付いてた。ずっと見てたから。最初はちゃんとその人たちと付き合ってるんだと思ってた。それならしょうがないって、なんとか諦めようとしたけど、いつもふっか幸せそうじゃなかった。」
「っ…」
「ふっかを幸せにしない奴に、もうふっかを渡したくない。俺がふっかにあげる。幸せも、笑顔も、何もかも俺の全部。好きだよ、、ふっか……。俺を選んでよ…。」
潤む照の目を見ていたら、昔の記憶が朧げに浮かんできた。
まだずっと若かった頃、あの頃の俺、愛だけが欲しかった。
誰かを慈しむこと、そばにいるだけで満たされるもの、隣にいる誰かを対等に大切にし合うこと、利害もGiveもTakeも無いもの、混じり気の無いもの、そんなものを求めていた。
ただそれだけが欲しかったのに、そんなものすら簡単には手に入らなかった。
大人になると、次第に、体を許せば偽物でもそれが手に入ると知った。
お手軽で、簡単だった。
そんなことを繰り返しているうちに、俺の値打ちなんて無いに等しくなった。
照は俺に何を見出しているのだろう。こんな赤札の貼られたものに。
「…俺、もうそんな価値ないよ?」
「俺にはあるの。」
照はそう返して、俺に口付け、そのまま俺の首筋をなぞっていった。
あぁ、最初にえっちはいけないのに。
好きになればなるほど辛くなる。
俺は、体を繋げてきたみんなを気の向くまま愛してたのに、俺を愛してくれた人はいなかった。
でも、俺も好きって伝えてたっけ?
覚えてない。
そう、俺はこういう奴。
好きって伝えたって、伝わらないんだもん。
そんなバカに言ったってしょうがないじゃん。
それに、好きの意味も分からないから言わない。ううん、言えない。
分かってないのに伝えるなんて、なんだか嘘吐いてるみたいでしょ?
結局、言えない俺もバカなのよ。
徐々に高ぶる鼓動と、甘くなっていく俺の吐息が、部屋に反響する。
照と登り始めている、この一段飛ばしの階段で、俺はまた血を流すのかな。
「っ…は、ァッ、んんっ、ひ、ひか…る、ぅぁっ、もっと、おくぅ…ッ」
「、っふ…は、ぇ、こう?」
「ん“んんぅ〜ッ!? そぅ、それ、すき…ぃ、、なのっ…ぁ“あん“ッ!!」
「ふっか、、っ、すき……っ、すき……」
「んぇっ??、な、に…?っひぅッ!…っぅあ“ぁ”!?そこばっか、、っや“ぁ“ぁん“!」
照は、俺の感じるところばかり突き上げて、 うわごとのように何かを唱えている。
「好きになってよ…っ、、おれがいい、おれだけがいい…ッ」
「も、もぅッ、わか、っわかんなぁ…ッ、、いま、かんがえらんないッ…!」
照の言っていることを聞いてあげたいのだけれど、体中を駆け巡る強い快感に手一杯で、今の頭じゃそんな難しいこと考えられない。
背筋が痺れて、もうすぐ高みへ昇っていく感覚に目の奥がチカチカする。
「ひか、ひか、るッ!もう、も、い“ぐッ!、イッちゃぁあ“ぁ、っ!!」
「いいよ、イッて、おれのでイッて、、おれも、イきそ…っ!」
とどめのように、前立腺を抉られ、俺は背中を仰け反らせて絶頂した。
いつもはベッドの上で煙草を吸うのだが、ここはホテルじゃなくて照の家。
案外、換気扇の下で味わうのも悪くはなかった。
照はたまに、俺の一服に付き合ってくれる。
今も、俺の隣で 静かに紫炎を燻らせていた。
思いついたように照に問いかけてみた。
「ねぇ、ひかる?」
「なに?」
「全部くれるってほんと?」
「え?」
「俺に全部くれるって言ったじゃん、さっき。」
「あぁ、、。うん。」
「なら、照の愛、俺にくれない?」
「…え」
「俺に教えてよ、愛ってなんなのか。好きってどういうものなのか。」
「…いいの?」
「いいよ。照がくれた分、俺もちゃんと返すから。まぁ、今んとこやり方わかんないんだけどね。だから、返し方も照が教えて?」
「俺、だいぶ束縛激しいし、嫉妬深いけどいいの?」
「何回確認すんのよ、いいってば。そんぐらいじゃないと愛されてるかわかんねぇし、丁度いいんじゃねぇの?」
「うん…うん…っ、、」
「ちょ、泣くなよ…!」
「じゃあ、まず、ふっか。」
「ん?」
「俺と付き合ってください。」
「っ!?そっから始めんの!?」
「順番あるでしょ。」
「さっきすっ飛ばしたのは誰だよ。」
「それはそれ!今から始めるの!!!」
「はいはい、、。」
「返事は?」
「………っだぁぁぁぁぁぁ!!よろしくお願いします!これでいい?!」
マジで慣れねぇ。こんな小っ恥ずかしい段階踏んだことない。
キレ気味で返せば、照は、
「よくできました」
とニヤついた唇のまま、俺に口付けた。
照と付き合ってから初めてしたキスは、煙の苦い味がした。
お借りした楽曲
リスクヘッジ/香月紅茶 様