宴会の喧騒の中、酔いがまわってきてぼーっとしながらふと視線をやると、衛生兵さんは机に突っ伏し、ぐったりと眠り込んでいた。
赤く染まった頬、かすかな寝息に混じる酒の匂い。
その姿に、私は思わず小さく息をついた。
……最近は冷え込む夜が続きますし……このままでは、風邪をひいてしまいますね。
そう思いながら肩に触れ、そっと揺さぶった。
軍医「衛生兵さん、そろそろお帰りになったほうがいいですよ。風邪を引いてしまいます」
ゆっくりと瞼が開き、潤んだ瞳がこちらを映す。
衛生兵「……いやであります……」
軍医「え?」
衛生兵「軍医殿が……“ 愛してる ‘’って言ってくれたら……帰るであります……」
思わず瞬きをした。
本気…冗談か酔いの戯言か ──
しかし、その瞳はまっすぐで。
胸の内に、微かな困惑と熱が広がる。
……そんな言葉、軽々しく口にするものでは……。
けれど、このままでは彼は帰ろうとしない。
風邪をひかせるわけにもいかないし……
何より、安心させてやりたい 。
恥ずかしさなどがぐちゃぐちゃになりながらも
小さく息を整え、片手で口元を覆い、耳元へと身を寄せる。
一拍の間を置いて ──
軍医 「 …… ~~~~~~ 」
その言葉をようやく吐き出すと、衛生兵さんはふにゃりと笑みを浮かべ、そのまま瞼を閉じた。
安堵に包まれた寝顔を見て、私は胸の奥が締めつけられるのを感じる。
軍医「……まったく、手のかかる方ですね」
小声でそう呟き、彼の身体をそっと抱き起こした。
重みを腕に受け止めながら、周囲に気づかれぬよう静かに立ち上がる。
宴会場のざわめきから離れると、不思議なほどの静けさが広がっていた。
眠る衛生兵さんの体温を確かめるように抱き直し、私は小さく息を吐く。
── せめて今夜くらいは、風邪などひかせるわけにはまいりませんね。
心の中でそう呟きながら、私は歩みを進めた。