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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第31話 〚決めたのは、大人だった〛(担任視点)
放課後の教室。
ほとんどの生徒は帰って、
机と椅子だけが残っている。
その中で、
一人座っていたのが——
真壁恒一だった。
「……真壁」
声をかけると、
少し驚いた顔でこちらを見る。
「班、決まらなかったな」
責めるつもりはない。
事実確認だ。
「……はい」
俯いたまま、
小さく返事をする。
「どうする?」
「このまま、
どこかに入るか。
それとも——」
言い終わる前に、
真壁が顔を上げた。
「1班に入りたいです」
はっきりした声だった。
迷いは、なかった。
「……理由は?」
「一番人数が揃ってて、
楽しそうだからです」
それ以上は、
言わなかった。
私は、
少しだけ考えた。
人間関係の空気は、
分かっている。
でも、
修学旅行は“行事”だ。
誰か一人を、
完全に外に置くわけにはいかない。
「分かった」
そう答えて、
私は席を立った。
——その直後。
教室の扉が開く。
白雪澪を先頭に、
えま、しおり、みさと、りあ。
続いて、
海翔、玲央、湊。
ちょうど、
1班の8人が揃っていた。
「みんな、少しいいか」
声をかけると、
全員が集まる。
私は、
真壁の希望を伝えた。
「真壁が、
1班に入りたいそうだ」
空気が、
一瞬止まる。
誰も、
すぐには喋らない。
視線が交わる。
澪は、
何も言わずに立っている。
海翔は、
表情を変えない。
湊は、
小さく息を吸った。
——沈黙。
私は、
続ける。
「もちろん、
強制じゃない」
「でも、
誰か一人だけを
残す形にはしたくない」
本音だった。
しばらくして、
えまが小さく言う。
「……仕方ないよね」
それをきっかけに、
他の子たちも頷く。
誰も、
賛成しているわけじゃない。
でも、
拒否もしなかった。
「……分かりました」
海翔が、
静かに言った。
「1班に、入っていいです」
その言葉で、
決まった。
私は、
黒板に名前を書き足す。
——真壁恒一。
1班は、
9人になった。
「ありがとう」
真壁が、
少しだけ笑った。
その笑顔を見て、
私は胸の奥が、
少しだけざわついた。
(これは、正しい判断か?)
分からない。
でも、
教師として選んだ。
——“誰も一人にしない”という選択を。
教室を出るとき、
後ろを振り返る。
1班の輪の中に、
真壁がいる。
でも——
距離は、まだある。
その距離が、
この先どうなるか。
それはもう、
私の手を離れていた。