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『それはそうと、美晴さん。あなた、体は大丈夫なの? ちゃんと子供を産めるの? ぬか喜びはさせないでよッ』
美晴は驚いた。義母から体の心配をされることは考えていなかったからだ。
「はい、気を付けます。ご心配くださってありがとうございます」
『幹雄ちゃんの子供ですからね。無事に産む責任があなたにあるのよ』
「はい。気を付けます」
このまま電話を切ろうとしたが、ちょっと待ちなさい、と金切り声が上がった。
『それはそうと美晴さん、今日はお買い物へ連れて行ってくれる日でしょう。もう随分予定が遅れているのよ、あなたわかっているの?』
美晴は耳を疑った。この状況で、妊婦に運転をさせて義母の買い物に付き合う――?
正気の沙汰ではない。
「あ、あの、お義母さま、私、これから家に戻って安静にしようと思っておりまして――…」
『はぁぁ!? なにを言っているの! 私、ずっと待っていたのよっ。さっさと車を出してちょうだい。ダンスクラブの送迎もありますからねッ』
恐ろしい勢いでまくしたてる和子に、美晴は恐る恐る現状を伝えた。「お義母さま、あの…安静にするようにとお医者様から言われたのですが…」
『嫁の分際で口答えするつもり? 私が車を出せって言ってるのよ! さっさと来なさい!!』
「は、はいっ」
義母はいつも美晴の都合などお構いなしに好きな時に呼びつける。
車で五分ほどの距離なのでアポなし訪問は当たり前、義母の用事に呼び出されることは頻繁にあったが、今日ほど酷い呼び出しはない。
(お腹の子を大事にしたいのに…。でも、お義母さんには逆らえない…)
仕方なく急いで義理実家へ向かうが、お腹の子のことが心配で運転が慎重になった。
「お待たせしました!」
「遅いッッ。3分以内に来なさい! 私を待たせないで」
スムーズに来ても五分はかかる距離を三分で来いという無茶ぶり。今に始まったことではないが、妊娠がわかった今は遠慮して欲しいと思う。送迎は難しいからこれからは遠慮したいと言ってみたものの、説教が返ってきただけだった。美晴は痛む胃をこっそり押さえた。
妊娠したことを喜んでくれたのは最初だけで、送迎中、今まで子供ができなかったことへの辛辣な嫌味のオンパレードが美晴を待っていた。
買い物中は車内で待たされた。もう帰りたいが、和子は赦してくれない。買い物から戻ると、次は社交ダンスクラブのレッスン会場に行けと顎で使われた。
和子を送っていくと、一時間後きっかりに迎えに来いと言われて仕方なく近隣で時間を潰した。一時間で終わるはずのレッスンだが、義母の都合でかなり待たされた。それについての謝罪は一切ない。
予定が大幅に狂ってしまい、帰宅時間は夕方を過ぎていた。義母は勝手なため、美晴が買い物をして待つことは難しい。あまりに待たされて食材が痛んでしまったり、急に友人を乗せたりする。そのため待っている間に買い物へ行くことができない。
今から夕飯の準備をしないと幹雄の帰宅時間までに間に合わない。買い物は諦めて仕方なく家にあるもので夕飯を作っている最中に幹雄が帰宅した。
「お帰りなさい。食事にしますか? お風呂にしますか? 今日は暑かったから、先にお風呂に入ってさっぱりされたらいかがでしょうか?」
あと一品が間に合わなかったので、風呂に入ってくれたなら間に合わせることができるが――
「今日は先にご飯にしようかな」
こんな時に限って風呂より先に飯にすると言う夫。
その言葉に胃がキリキリと痛んだ。