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砂原 紗藍
#再会
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びしょ濡れの姿で玄関に立っていたのは、この店の10年以上の常連客の古河さんだ。
近くで輸入雑貨のお店を経営している、白鳥さんと同じく年齢不詳の美魔女だ。
「古賀さん、大丈夫ですか? タオルお使いください」
「ありがとう。びしょ濡れで申し訳ないわ。白鳥は?」
「もうすぐ帰ってくると思います」
予約の時間までまだ少しあるので、白鳥さんもまだ帰っていない状況だ。
もし先に来たら、私が今日の予定を聞くよう頼まれていた。
「あー。じゃあ華怜ちゃんでいいわ。左手のパーツが取れちゃったからくっつけてほしいの。本当は新しいのにしようかなって思ったけど、濡れちゃったし後日にするわ」
渡したタオルが、雑巾絞りで絞れそうなほど重たくなったので二枚目を渡す。
その後、私が爪を修正している間、ドライヤーで髪や肩を乾かしてもらった。
「あの待合室に座ってるイケメンはお客さん? 業者?」
「あーっと、迷惑な押し売りです」
「へえ。あんなイケメンでもそんな仕事してるの。パトロンになっちゃおうかな」
古賀さんが熱い視線を向けるもなんのその。
下を向いて目を閉じたまま、起きる気配もない。
しかし、家が豪邸で社長の息子である彼が、パトロンを望むとも思わないので笑ってごまかした。
「できましたよ。もし新しいネイルにする場合は、白鳥さん、再来週の火曜と木曜の20時なら時間とれそうです」
「あら、そう。どっちもデートだわ。たまには若い子に頼もうかな。貴方はいつ時間がある?」
「私でしたら月曜以外、午前中は時間に余裕があります」
「決まりね。金曜にお願いする。時間は貴方の都合に任せるわ」
トントン拍子で予約も決まり、白鳥さんが戻ってくると同時に古賀さんが出て行こうとしていた。
「華怜さん、戸締りしててもらっていい? 私、古賀を店まで送っていくわ」
「……はーい」
戻ってきた白鳥さんには、待合室に座っている彼は見えなかったようだ。
「あのう、店を閉めますので、出てください」
「……」
カウンターからけっこう大声を出したのに、気づいていない。
近づきたくないなって思い、レジに飾っていたユニコーンのぬいぐるみを、彼の頭に投げた。
コロコロと転がるユニコーンは、苦情の顔を私に向ける。
が、全く無反応の彼をよく観察すると、寝息を立てていることに気づいた。
「信じられない」
考えると言いながら、実は眠っていたことに気づくのは予約のお客が帰った後だった。
「あのう、お店、終わったんで帰っていただけますか?」
もう一度、強い口調で声をかけると、一瞬ガクっと大きく首を揺らして彼が顔を上げた。
「あ――、すまない。最近、眠る時間がなくて」
じゃあ私に構わないで、さっさと帰って寝ればいいのに。
「今、お店に貴方と二人きりなので、一度店を出てくれませんか?」
「なんで?」
眠そうに前髪を掻き上げて、立ちあがろうとした彼に、私は良い慣れた言葉を投げかけた
「怖いからです。――貴方なら分かるんじゃないですか?」
眠そうだった目は、急に大きく見開いた。
そして私をゆっくりと見る。
「私、貴方がこれ以上近づいたら、失神か発狂するかもしれませんよ」
「……失神か。したね、あの時」
立ち上がって少し考えてから、彼は私の目をじっと見て、首を傾げた。
「さっき言ったけど、俺と結婚してほしい」