テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……まだ言いますか。信じられない」
危害をくわえてきそうなそぶりはないし、落ち着いた声のトーンに、怖いという感情はない。
でも、結婚してほしいという言葉には、抵抗があった。
「10年以上ぶりですよね。なんで突然会いに来て、結婚なんですか? 過去の贖罪? 男性恐怖症になった私に責任を感じてるの?」
「……分からない」
転がっていたユニコーンのぬいぐるみを持つと、近くのテーブルの上に置いた。
数分前、自分の顔に投げられたものとも知らずに、真ん中に座らせている。
「君が女子校に行ってから、誰も連絡が取れなくなったって聞いていた。あそこ戒律が厳しいし、美里さんがまだ連絡が取れていたとは知らなかった」
確かに私の通う女子校は、駅まで園バスの送迎、携帯電話の所持は禁止、見つかった場合は退学、高校からは女子寮、華美な服装、化粧禁止と色々細かい校則があった。
でも単に私が誰とも連絡を取りたい気分ではなかった。誰とも会いたくなかっただけ。
「美里は、連絡が取れなくなった私のために日曜のミサに参加して、手紙をくれたの」
「……君が男性恐怖症で、未だに同級生と会わないと聞いて、胸が苦しくなって、――君の綺麗な髪が涙のように散らばるあの記憶で胸が押しつぶされそうになった」
ぬいぐるみを見つめていた彼が、再び私を捉えた
「同情なのかわからない。過去の贖罪なのかも俺には判断できない。ただ一目会って、この気持ちを昇華したかった。でも会ったら」
困ったように眉を下げ、苦笑する。
「会ったら、綺麗な君を見て自然と言葉が出ちゃった。ああ、俺、結婚したいなって」
「……帰ってください」
「なんでそんな言葉を言っちゃったかなって考えてたら、眠っちゃった」
――ごめん。
簡単に謝られ、どうしていいのか分からなくなった。
悪びれもせず、自分でも原因も分かっていない気持ちを私に押し付けてきただけだ。
「つまり、外見で判断したんですね」
「まあ一目ぼれって外見だろうね。ヤンキーが子犬を拾ってる場面は、外見って言うかギャップだろうけど」
なぜか彼は自分で言って、ククッと小さく笑った。今、どこに笑う要素があったのか分からない。
「私、この歳まで全力で男性と関わるのを逃げてきたので、貴方と関わるつもりもメリットもありません」
閉めるので出てもらえますか、と入り口を指さす。
すると彼が整った唇を大きく歪ませた。
それを見て、私は二歩下がった。
「ああ、ごめん。怖がらないで。メリットがあればいいんだなって思っただけ」
「帰ってください」
「……あるよ、メリット。俺と結婚するメリット」
嬉しそうに言う彼を睨みつけた。
分からない。怖くはないけど――彼がとても静かで落ち着いているのが不気味に思えた。
「はやく帰ってください」
もう一度、吐き捨てるように言うとタイミングよく裏口の鍵が開いた。
白鳥さんが帰ってきてくれたのかなって振り向くと、白鳥さんの旦那さんで、二階のヘアサロンの店長と――辻さんだった。
「華怜ちゃん、二階は閉店作業終わったんだけど、手伝うことある?」
辻さんが私を見る。――値踏みするように。履いているヒール、着ているワンピース、耳につけたイヤリング、すべてじとっとした目で見られて、背筋が寒くなった。
爬虫類が獲物を飲み込もうと観察しているみたい。
そんなことを考えていると思ったら、失礼なのかな。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
砂原 紗藍
#再会