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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第58話 真壁恒一視点〚 “守られている空間”に入れない〛
休憩所に着いて、
みんなが一斉にバスを降りた。
真壁恒一は、
少し遅れて立ち上がる。
(今なら、話しかけられる)
そう思った。
修学旅行。
同じ班。
同じ部屋。
——距離は、
前より近いはずだった。
澪は、
バスを降りてすぐ、
少しだけ立ち止まった。
(今だ)
真壁は、
一歩踏み出す。
「なあ——」
その瞬間。
「澪、さっきの荷物、重くなかった?」
先に、
声が入った。
海翔だった。
真壁は、
足を止める。
澪は、
振り返って、
海翔を見る。
「あ、うん。大丈夫」
その声は、
柔らかくて、
自然だった。
(……え)
真壁は、
二人の距離を見る。
近い。
でも、
くっついてはいない。
ただ——
“迷いがない”。
海翔は、
澪の少し横に立っている。
真正面じゃない。
でも、
通り道に自然と入る位置。
(……入れない)
そう思った瞬間、
胸がざわっとした。
(おかしいだろ)
(同じ班なのに)
(俺も、話していいはずなのに)
真壁は、
もう一度口を開こうとする。
でも。
澪の視線は、
海翔に向いたまま。
話の流れも、
もう出来上がっている。
「このあと、先生呼ばれてたよな」
「うん。先に行こっか」
二人は、
そのまま歩き出した。
真壁の横を、
すり抜けるように。
(……待てよ)
声が、
出なかった。
止められたわけじゃない。
睨まれたわけでもない。
なのに。
(線が、ある)
はっきりと。
透明で、
静かで、
触れたら壊れそうなのに——
絶対に越えられない線。
(なんでだよ)
真壁は、
立ち尽くす。
周りでは、
クラスメイトたちが
笑って、話して、動いている。
でも、
その輪にも、
入りづらい。
(……俺、
何か間違えたか?)
思い返す。
澪に優しくした。
褒めた。
話しかけた。
(悪いこと、
してないはずだろ)
なのに。
(なんで、
海翔だけが、
あんなふうに隣にいられるんだ)
胸の奥に、
焦りが広がる。
(俺は、
“同じ場所”にいるのに)
(あいつは、
“中”にいる)
その差が、
急に、
はっきり見えた。
真壁は、
拳を握る。
(守られてる……)
そう思った瞬間、
言葉にできない
悔しさが湧いた。
(俺は、
危ない側なのか?)
(それとも、
信用されてないだけか?)
答えは、
分からない。
ただ一つ、
分かったことがある。
(……無理に入ろうとしたら、
もっと遠くなる)
それを、
本能で感じてしまった。
真壁恒一は、
ゆっくり息を吐いて、
別の方向へ歩き出した。
背中越しに、
もう一度だけ、
澪と海翔の姿を見る。
二人は、
もうこちらを
見ていなかった。
——その事実が、
静かに、
胸に刺さった。