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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第59話 澪視点〚“守られている空気”に気づく〛
休憩所の冷たい空気が、
少しだけ肺にしみた。
バスを降りて、
人の流れに乗って歩く。
——その中で。
私は、
不思議な感覚に包まれていた。
(……静か)
騒がしくないわけじゃない。
周りでは、
笑い声も、話し声もある。
でも。
私の周りだけ、
空気が違う。
海翔が、
隣を歩いている。
距離は近いけど、
触れてはいない。
なのに、
誰も割り込んでこない。
(……あ)
そこで、
気づいた。
これは、
偶然じゃない。
守られている。
物理的に、
腕で囲われているわけでも、
声を荒げているわけでもない。
ただ、
“入りづらい空気”がある。
(海翔が、
作ってる……)
そう思った瞬間、
胸の奥が
きゅっとした。
ありがたい。
安心する。
でも、
同時に——
少しだけ、重い。
(私、
そんなに危なそうに見えるのかな)
そんな考えが、
ふっと浮かぶ。
振り払うように、
前を見る。
先生たちが、
人数確認をしている。
その視線が、
一瞬だけ、
こちらに向いた気がした。
(……見られてる)
でも、
責められている感じはしない。
むしろ。
(……気づかれてる?)
海翔は、
何も言わない。
でも、
歩く速度を
私に合わせている。
人が多い場所では、
半歩前に出る。
それが、
自然すぎて。
(……当たり前みたい)
そのことに、
また胸がざわつく。
(私は、
この中にいていいのかな)
(守られる側で、
いいのかな)
ふと、
後ろに気配を感じて、
少しだけ振り返る。
真壁恒一が、
少し離れたところにいた。
こちらを見ているようで、
でも、
近づいてこない。
目が合った気がして、
すぐに逸らした。
その瞬間。
海翔が、
ほんの少しだけ
前に出た。
何も言わない。
何もしない。
ただ、
立ち位置が変わっただけ。
(……あ)
分かった。
この空気は、
私が作ってるんじゃない。
海翔が、
“私の前に線を引いている”。
それは、
私を閉じ込めるためじゃない。
——入れない人を、
選んでいる。
そう理解した瞬間、
胸が、
少し苦しくなった。
(守られるって、
こんな感じなんだ)
安心と、
申し訳なさと、
戸惑い。
全部が、
同時に来る。
私は、
何も言えずに、
ただ歩いた。
守られている空気の中で。
——そして、
気づいてしまった。
この空気が壊れたら、
私は、
もっと不安になる。
それが、
少し怖かった。
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