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宙を漂う種が、次々と窓にぶつかっては砕ける。外でまたたく星が歪んだ。郷田は種のほとんど空っぽになったウームの房を採って、口に入れた。苦みが口の中に広がる。噛み続けるうちに甘くなっていく。髭に付いた分を手で払うと、粉状になって空間を離れていった。
メーターや数字文字、モニター画面の計器類に囲まれたコックピットに泳ぎ着くと、彼はシートベルトで身体を固め、半円のハンドルに片肘を載せた。肩口から伸ばしたマイクに非常事態宣言、と繰り返し唱える声が棒読みだ。時々髪の裾が口に入りこんで、声が不明瞭になる。彼は小さく息を落としたあと、ギヤボックスの向かいにある赤いボタンに手を伸ばした。これには元々Emergencyと書かれたプラスチック製の保護シールドがついていたが、すでに破られている。だから、今はただこうしてぷちんと人差し指で押せばよい。これでワープ便と呼ばれる、空間を省略した状態でのSOS信号を、母なる星の管制塔に送ったことになる。とはいえ、作業は肝心な内容を欠いていた。