テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第6章 天使と悪魔が口付けを交わすとき
空が崩れ、光と闇が交わった。
それは終末の始まりか、あるいは再誕の合図か。
天界と魔界、その境界が崩れつつある中、赤と水は手を取り合って立っていた。
「水っち、怖くないの?」
「怖いよ。でも……赤ちゃんと一緒なら、怖くても前に進める」
かつて、触れることすら許されなかった天使と悪魔が、互いの手を握っている。
周囲では、青、白、桃、黒――それぞれが自軍を抑え込んでいた。
「俺らが止めへんと、ほんまに世界ぶっ壊れるで!」
白が叫びながら仲間の天使たちを制止する。
「止めろ! 赤に手ぇ出すな! 俺が全部ぶっ飛ばすぞ!!」
桃の怒声が響き、悪魔兵たちも混乱の中で立ち止まる。
黒は剣を振るわず、ただ静かに呟いた。
「これが……希望や言うんやったら、俺は信じる」
青は背後から天使の光を受けながら、空を睨みつける。
「お前ら、よう聞けぇ! 天使が悪魔に恋して、何が悪い!!」
その言葉が、裂けた空を震わせた。
やがて、天界の上層、魔界の深層――両方から、長老たちが姿を現す。
「天使と悪魔は混じり得ぬ存在。愛など、幻想だ」
「それを証明するためにこそ、この戦争はある」
そう語る者たちに対し、水が前に出る。
「幻想かどうかは、僕たちが決めます」
赤も続く。
「お前らの作った“秩序”なんざ知るか。俺はこの手で、新しい世界を作る」
長老たちが裁きを下そうとしたその瞬間――
水が、赤にキスをした。
それは、誰も予想しなかった行動。
でも、あまりにも自然で、必然で。
赤が目を見開き、そして、ゆっくりと笑う。
「……お前、先にやるとは思わなかったぜ」
「ずっと、したかったから」
キスの直後、空が砕けた。
けれどその光は、破壊ではなかった。
むしろ、世界が縛られた鎖を断ち切る“祝福”のように見えた。
「これが、“本当の光”ってやつかもな」
赤が呟いた。
「うん。“僕らの光”だね」
水が頷く。
混乱の中で、それでも誰も彼らに刃を向けようとはしなかった。
天使も、悪魔も、何かが変わったことを肌で感じ取っていた。
「……世界は変わる」
「いいや、変えるんだよ。俺とお前で」
そうして、赤と水は並んで歩き出す。
背後では白と青、桃と黒――天界と魔界の“橋”になった仲間たちが、その背中を見送っていた。
天使と悪魔がキスをするとき、世界は愛を知る。
それは、敵対の物語の終わりであり、
理解と共存の物語の始まりだった。
――Fin.