テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第七章:最後の塔、最初の罪
風が、重い。
空の色が、鈍く霞んでいた。
ルナとヒイロは、険しい山道を登っていた。そこは塔へと続く、最後の道。
だが、足元の石に紋章が刻まれ、道の両端には魔除けの柱が並んでいた。
「ここ……人間の封鎖陣だ」
ヒイロがつぶやく。
それは、人間の国が用いる“魔女侵入防止結界”。
完全に魔女に対しての敵意だ。
「これ以上進んだら…また襲われるかも…それに…最悪戦争とかに…」
「……ヒイロ」
ルナの声は、少し震えていた。
それでも目は前を向いていた。
「あと一つなんだよ……あとひとつ塔を壊せば、ボク、“本物の魔女”になれるんだって。……トールおばあちゃん、そう言ってたもん」
「……でも、それで誰かを傷つけたら? あの村みたいに、人が──」
「だったら、どうすればいいの……!?」
ルナが叫んだ。
その声は、これまでで一番大きかった。
「ボクは、“ただの子ども”じゃいられない。魔女にならなきゃ、意味がない……! そのために、ここまで来たのに……!」
ヒイロは、言葉を失った。
ルナのその顔は、涙に濡れていた。
そのときだった──
ザッ……と、道の先に兵士たちが現れた。
槍を構え、結界を展開し、目には明確な敵意が宿っている。
「魔女を確認……接近している人間の少年も同行者。敵とみなす」
「やめてっ! ボクは、ボクは戦いに来たんじゃない──!」
だが兵士たちは耳を貸さない。
矢が放たれた。その一本が、ヒイロの足元に突き刺さる。
「ヒイロっ!」
「……ヒイロを傷付けるな!!」
その瞬間、ルナの杖が火を吹いた。
反射的に、何も考えず──ただ、ヒイロを守りたくて。
魔法が唸り、爆炎がひとりの兵士を吹き飛ばす。
その体は地面に転がり、血を流し、動かなくなった。
「……え……」
ルナの目が、見開かれる。
杖を握る手が震えていた。
倒れた兵士の周囲に、焼け焦げた草が広がっていた。
「ボク……ボク、いま……」
「ルナ──!」
ヒイロが駆け寄る。
ルナの視線は、ただ地面に倒れた人間の姿を見つめていた。
「“試験”って、こんなこと……なの……?」
その言葉は、もう誰にも届かなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!