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第八章:真実、そして終わりの始まり
焚き火の明かりが、淡く揺れていた。
いつもなら温かくて、どこか落ち着くはずの時間。
けれど今夜、ルナはその炎をまっすぐ見ることができなかった。
「……ヒイロ」
か細い声で、彼女は名前を呼んだ。
ヒイロは黙って頷いた。
「……ボク、さ……人間を……殺しちゃったの、かな」
その問いは、子どものようで、けれどあまりにも重かった。
「……あの兵士、動いてなかった。血、いっぱい出てて……
でも……ヒイロを守らなきゃって思ったら、体が勝手に……!」
ルナの声が震え、涙が目に溜まっていく。
「ごめん、ごめん、ボク……“試験”なのに……!!」
「ルナ……」
ヒイロは言葉を探しながら、そっとルナの肩に手を置いた。
「……君が守りたかったのは、僕なんでしょ?
それだけは……わかってる。だから、僕は君を責めない」
けれど、それでも──
ルナの手が“人を殺した”という事実は、消えなかった。
*
その夜。
ふたりの前に、黒い霧が立ち昇った。
あの声が聞こえる。
「──よくやったよ、ルナ」
焚き火の向こう。煙の中から、トールの姿が浮かび上がる。
「三つの塔はすべて崩れた。お前はもう、“本物の魔女”だよ」
「…………」
ルナはうつむいたまま、何も言わなかった。
その沈黙を、トールは気にも留めないように続けた。
「これで封印は解かれた。魔女たちの力は完全に戻る。
お前の手で、“未来の世界”への扉が開かれたのさ。誇りなさい、ルナ」
「……封印?それに未来の世界って…」
ヒイロが問い返した。
トールの目が細く光る。
「人間に奪われた時代を、取り戻す未来さ。
我ら魔女が、再び空を裂き、森を支配し、世界を魔力で満たす。
そのために、あの“抑圧の塔”を壊す必要があった──」
その言葉に、ルナが顔を上げた。
「……“塔”は……“人間が作った封印”……だったの……?」
トールの目が揺れた。そして、すぐに笑う。
「ふふ……まあ、そう言ってもいいね」
「……ウソ……」
ルナの声は震えていた。
その肩が、怒りとも悲しみともつかない感情で、小さく揺れる。
「ボクは、“試験”だって聞いた……! ただ、“魔女になるため”って……!」
「魔女になるとは、そういうことだよ。ルナ。
嘘ではないさ。すべては、“魔女の使命”として、当然のこと──」
「ちがう!!」
ルナが叫んだ。
その声は、これまでで一番強かった。
「ボクは……“殺すための魔女”になりたかったんじゃない!!」
トールの笑みが、ふっと消える。
「……ならば、その理想を、どう守る?」
その問いに、ルナは答えられなかった。
焚き火が風に吹かれ、形を崩していく。
燃え残った灰が、空へと吸い込まれていくようだった。