この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません
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阿部side
用意されていた服を見て正直驚いた。 生まれて初めて着る真っ白でシワ一つ無いワイシャツに、真っ黒で細身のパンツ。同じく黒の上着…これがスーツって言うものなのかな。 シンプルだからこそ上質な素材だということが素人以下の俺にだってよくわかる。 恐る恐るその服に身を包み、全身鏡の前に立つと我ながらいつもよりスタイルがよく見えた。 折角なら髪も弄ってみようかと置いてあったワックスを使って、いつか見たネット記事の記憶を頼りに髪をセットしていく。 まあ無難にアップバングかな
『…あれ、結構いいんじゃない?』
《お、いーじゃんいーじゃん。よく似合ってるよ》
深澤さんが褒めてくれた。 ついでにネクタイも結んでくれて、なんか就活に行く前の母親と息子みたいな構図だ。
《っし、俺の担当はここまで。そのドア開いたらお前のこと引き取ってくださる佐久間様がいらっしゃるから。じゃあ、行ってらっしゃい!》
ずっと一緒にいた深澤さんとの別れはあまりにも呆気ないものだった。 悲しみとか寂しさとかそんなものを感じる暇なんて無いほどに。 扉を開いて長い廊下を歩いていくと、明るい景色のなかに一際明るい髪色の男がいた。 俺より10cmほど背が低いだろうか
「おっ!来た来た!!」
『えと…佐久間様、で、あっていますか、?』
「そだよー、オレっち佐久間大介、よろしくね~ん」
佐久間大介と名乗ったその男はよく見る金持ちとは全く似ていなかった。 明るくて、気さくで、何より俺のことを人間として見てくれているような気がする。 というのも、ここに来る客たちはペット代わりや奴隷として使う用に引き取っていく奴が多い。しかもほとんどの用途は性処理だ。 だから俺もそういう目で見られているもんだと思っていたらそうでもないらしい。 なんかちょっと逆に恥ずかしいな
「君さぁ、名前1127しかないの?」
『あ、いや……はい、覚えてなくて』
「はんはん、なるほどねぇ?んじゃ君の名前を考えるとこからスタートってわけだ」
『別に1127でもいいんですよ?笑』
「俺がやだわ、あでも名前で呼ばれるの嫌とかなら全然」
『…いえ、名前はつけていただけるなら、その名前を名乗りたいです』
「おっけー、名字は使用人に候補出させとく。名前は俺が考える!とりあえず家帰ろっか」
『あ、はい』
初めて乗った車は座るとこがとてもふかふかしていた。 昔使ってたソファより全然こっちの方が座り心地いいんじゃないか。 すげー、と車内を見回していると佐久間さんが隣に座ってきた。 改めてみるとこの人めちゃくちゃ綺麗な顔してるな、横顔が絵みたいだ
「あのさ、」
『?!はいっ』
「そんな緊張しなくても笑 じゃなくて、その服選んだの俺なんだけど何でその服なのかわかる?」
『えっ、これ佐久間様が選んでくださったんですか?』
「うん!いい生地でしょ。てか佐久間”様”はやだなぁ、上下関係厳しすぎるのやだから笑」
『えっ、あ、はい。わかりました。では何とお呼びすれば…』
「まず佐久間”さん”とかでいく?急に佐久間とかなんかあだ名とかで呼べって言ってもそっちが苦しいだろうし」
『ですねぇ、じゃあ佐久間さん…で、呼ばせて貰います』
「にゃは~いいねえ、姿とか口調とか、俺が理想としてた執事に近いや」
『執事…?』
「あれ、聞いてない?君今日から俺ん家で執事として働くんだよ」
『え』
想定外の事態。俺は佐久間家の使用人として、引き取られたらしい
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くそでかい家みたいなちっちゃめの城みたいなところについた。え、ここひょっとして佐久間家?
「ついた~じゃあまず君のお部屋を紹介しまぁす」
『ありがとうございます……』
とにかく広い。広すぎる。 言われるがままに靴を脱いで、こんなにいるのか不明なくらいたくさん段のある靴箱に靴をいれた。 ふわふわのスリッパを履くと、なんか頑丈そうで取っ手がないドアが目に入る。それに乗れと言われた。 佐久間さんが隣の丸いとこを押すと急に半分に亀裂が入って、パカッと横に開いた
『わ、すご』
「ん?エレベーターしらない?」
『えれべーたー…?』
このでっかい箱みたいな機械はエレベーターと言うらしい。 佐久間さんが3って書いてある数字を押したら扉?が閉まって変な感覚がした。 暫くしてふわっと少し浮き上がるような感覚がして、扉が開く。 さっきとは全く別の景色が広がっていて、なんだかたくさんドアがあることだけはわかった
「ここのね、右側の手前から2個目の部屋が君の部屋ね。一緒に行ってみようか」
『は、い…ありがとうございます、』
エレベーターから出て足を進めていく。
スリッパふかふかだし床もちょっとふかふかしてる気がする。 彼の後ろをついていくと一室の前で彼は止まった。 ここが今日から俺が過ごす部屋なんだろう。 寝床さえあればいいや、と思いながら開かれた扉の内側を見ると想像以上に色々揃っていて目を疑った
「勉強好きって聞いてたからでかい本棚と勉強机と椅子と、それからなんか凄い良い参考書?は用意してみた。気に入ってくれた?」
『は…ぇ、こんな、…え、ほんとにここ俺の部屋ですか?』
「そーだってば、…え、やっぱあんま良くなかった?オレ全然勉強しないからこういうのわかんなくt」
『いや想像してた1那由多倍くらい良かったんで…』
「なゆたってなに…」
『あ、数字の単位です。10の60乗』
「60…?」
危ない危ない、取り乱すところだった。いやもう乱れてはいたか。 でもそんなことはどうでも良いくらい、こんな立派な部屋をつくって貰えたことが嬉しくて堪らなかった。 あの施設から一変した生活に慣れるまでは時間がかかりそうだけれど、彼の元でならやっていける。そんな気がした
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『…わぁお、』
数ヵ月後、掃除していた彼の部屋からなんともいかがわしい本を見つけてしまったのはまた別のお話
コメント
2件
やっぱり💚🩷か🤭🤭