この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません______________________________________
目黒side
深澤さんから聞いたところによると、1127はスーツを用意されていたらしい。そういう堅苦しい感じは正直苦手だ。と思っていたら、俺に用意されていたのは滅茶苦茶ラフなパーカーとゆるーいジーパン。でも粗末なもんじゃなくて、俺が今まで見てきた中だと間違いなく一番良いものだと思う。まあ今までは布切れ纏ってたようなもんだし
『動きやすい。』
《感想あっさぁ…》
『…あの、深澤さん。俺また今日来てくれる人とも話せないかもしれないんですけど、』
《んぁ?あーそうなったらまたここで暫く過ごすことになるね》
『…もう、迷惑かけたくないのに、』
《だぁいじょうぶよ、お前ならやれる。俺今回の人となら216は上手くいくと思うよ》
『だと…いいんですけど、』
《ま、戻ってきたとしたら俺がまた話相手になってやるしさ~わら 》
どうもちょっと回線が遅いらしい俺は、会話のテンポ感が人と噛み合わないことも少なくない。初対面の人とは人見知りに上乗せしてその特性を発動してしまうから、喋れたためしがない。過去にも何度かこうしてお金持ちな人?と会う機会はあったけれど、どの人も俺が反応しないからと引き下がった。俺がここから出る方法は、用済みになって追い出される以外ないんだろうなと思っていた。それなのに
「え…っと。目黒蓮くん…で、あってるかな」
メグロ、?メグロレンって誰だ。というかそもそもそういう文字の羅列の名称を持っている人なんて深澤さんしか知らない。1127とか325とかそういう数字で呼ばれるのは知ってるけど、メグロレンって呼び方もあるのか。名字?名前?って言ったっけ。悶々と悩んでまた応答できないでいると、それに気がついたのか質問を変えてくれた
「あー…っと、君は216番さん、?」
『…は…ぃ、』
やっとのことでこくりと頷く。じゃあ216=メグロ=俺なのか?でも俺は216だけどメグロではないはず。そんな呼ばれかたなんか1回もされてねえし。いやあ、全然わかんねえ。というかそもそもこの筋骨隆々な男は誰なんだ。優しいけど見た目が厳つすぎる、ちょっとだけ怖い
『…ぁ、の、』
「ん?」
『名前…』
「名前?お前の?」
ふるふると横に首を振る。彼の名前を聞きたいんだと言いたいけれどなんか口が動かない。今回もダメだなあ、これじゃ相手が困る一方なんだから。
「あ、俺の?俺の名前は岩本照。」
『いわもと、さん。』
「そうそう、岩本さん。まあ呼びやすい呼び方で呼んでよ」
『…はい、』
「お前のことさ、目黒って呼んで良い?」
『メグロ…?』
さっきからちらほら出てきているけれど、それが俺の名前なのだろうか。ひょっとして俺の過去の名前は、メグロレンと言ったのだろうか。よくわからないけれど悪い気はしない。こくりと頷くと彼の表情がふっと緩んだ
『…わらった、』
「…そりゃまあ、俺も人間だから。てかこんなとこで話すのアレだし、嫌じゃなかったらカフェとか。どう、?」
『カフェ…』
「行きたくない?」
ぶんぶんと横に首を振って行きたくないわけではないという意思を見せる。てかこんな大男二人でカフェってなんか凄い光景になりそうだな
「んじゃ、行こうか」
______________________________________
出会ってから3時間程経った頃にはすっかり話せるようになっていた。たったの3時間でまともに会話ができるようになるだなんて、自分でもびっくり。ちゃんと俺の発言を急かさずに待ってくれたからかな
「そろそろ帰らなきゃかな、この時間には目黒帰してーって言われてたし」
『そうなんですか?』
「そう、だからお会計して出よっか」
彼について出ようと思ったのに、何故か俺の足は言うことを聞かない。彼だけが立ち上がって、不思議そうな顔をして俺の方を見ている。帰らなきゃいけないのに、なんでこうなってしまっているのか。ぐるぐる考えていると彼が少ししゃがんで俺に目線を合わせてくれた
「大丈夫か?気分悪かったり…」
『いや、あの元気です、』
「え?あぁ、元気なら良いんだけど笑」
『あ違、えっと、だから…』
自分でも何が言いたいのかわからなくなってくる。待たせてしまっているんだから急がなきゃいけないのに。早く早くと思うほど頭の中はぐちゃぐちゃになっていく。あーもう、一人で何やってんだか
「…焦んなくていいよ。蓮のペースでいいんだから、落ち着いて話しな。」
『ぁ…、と、はい…』
強ばっていた身体を解すように肩を優しく撫でられた。良くわからないけれど、なんだかあったかくて落ち着いてきて、頭の中の霧が全部なくなったみたいに鮮明になって言いたいことが言葉に変わっていく
『あの、わがまま…なのは、わかってる、し。此方にそんなことお願いするけんり、?は、ないって知ってる、んですけど』
「?うん」
『まだ岩本さんと、一緒に居たいです』
「…え、?」
『あそこに帰ったら、多分また暫く会えなくなっちゃうじゃないですか』
「まあ、そうだね」
『それはやだって思った…で、す。そしたらなんか、動けなくて。いや動きたくない?っていうか、この時間が終わるのやだな、みたいな』
日本語も怪しくなるくらい緊張しながら吐露したのは紛れもない俺の本心。まあこんなやつこの3時間で引き取るの嫌になってるだろうから厳しい話だろうけど。依然として驚いたような表情を浮かべる彼の手が肩から頭に移動した。え、何、?
「…初日で、そんな嬉しい言葉聞けると思ってなかった」
『え?』
「うちおいで、手続きとかは後日するし施設には上手く言っとくから」
『い、いんです、か?』
「もちろん、引き取りたいつったの俺だよ?歓迎するに決まってる」
“行こ”と差し出された手に手を重ねるとぐい、と引っ張られていとも簡単に立ち上がれた。さっきまでのあれはなんだったのやら。あれよあれよと言う間に彼の家まで一緒に行…帰ってくる。なんかくそでかいビルみたいなの立ってますけど
「よし、27階まで上がるぞ」
『?!』
______________________________________
どうやら岩本さんはたわまん?ってやつに住んでいるらしい。正式名称も教えて貰った。タワーマントン?みたいな、忘れた。
「…あ、これのここに名前書いて貰える?」
なんか文字とかハンコ?が押されてる書類みたいなの。デザインがとっても乙女チック、何だろ。てか名前書かなきゃいけないらしいけど俺読み書きできないよ
『…俺、字読めないし書けないんすよ』
「じゃあここにお手本書くから、見て書いてくれる?」
『お、それなら出来ます』
初めて見る文字の羅列。多分だけどレンの部分がくそムズい。最初の長いしかくみたいなのは簡単なのに。やっとのことで書いた”目黒蓮”は中々酷いできだった。だけど岩本さんは褒めてくれた
「お、ちゃんと書けてんじゃん。偉いえらい」
『…あざす、笑』
胸の奥が擽られているみたいだった。これが幸せと呼ばれているものなんだろうか。とかなんとかそのときは思っていたが、その書類がまさかの婚姻届だったことを知ったのは、また別のお話
コメント
5件
えぇ、気が早すぎるって、笑笑
展開が早いわ照さん😂😂💛🖤