テラーノベル
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僕の視界は、いつからか白いモヤで覆われていた。
目の前に立つ人間の顔すら判別できない。誰が笑い、誰が怒っているのか、今の僕にはもう分からなかった。なぜ突然こんなことになったのか、理由すら闇の中だ。失われていく視界とともに、僕の心もゆっくりと暗闇へ沈んでいた。
あの日も、リハビリ科の庭園で、ただぼんやりとベンチに座っていた。
夏の終わりを告げる風が、乾いた葉を揺らす音だけが耳に届く。世界から自分だけが取り残されたような静寂の中、不意に軽やかな金属音が聞こえた。
キィ、と小さく鳴る車輪の音。
僕の曖昧な視界の先に、白い輪郭がポツンと浮かび上がっていた。僕が気配を感じて顔を向けると、鈴が鳴るような、けれどどこか乾いた声が届いた。
「……誰?」
「あ……ごめん。驚かせるつもりじゃなかったんだ」
僕は立ち上がり、声のする方へと一歩踏み出した。けれど、彼女の表情は全く見えない。眉をひそめているのか、怖がっているのかすら分からない。
「僕、目がよく見えなくて……君の顔も、うまく判別できないんだ」
僕がそう呟くと、車椅子の気配が少しだけこちらへ近づいた。
「ふうん……。じゃあ、ちょうどいいじゃない」
彼女の声に、かすかな苦笑が混ざった気がした。
「私ね、歩けないの。立ち上がることも、どこかへ走っていくこともできない。……だから、お互い様ね」
車椅子に乗った少女——葵(あおい)との出会いだった。
「ねえ」と、葵が言った。
「君が私の『足』になって車椅子を押して。その代わり、私が君の『目』になって、周りの景色を全部教えてあげる」
「僕が……君の足に?」
「そう。二人で一人前。……ダメかな?」
僕の目の前に、小さな手が差し出された。ぼやけた視界の中でも、その手の温もりだけははっきりと伝わってきた。見えない僕と、歩けない彼女。不完全な二人だからこそ、重ね合わせられる世界があるのかもしれない。
「ううん、よろしく。僕のナビゲーターさん」
僕がその手を握り返すと、葵は満足そうに小さく笑った。
世界が少しだけ、色を取り戻した気がした。
コメント
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第1話、めっちゃ良かった…!「見えない僕」と「歩けない葵」が互いを補い合う関係性、もうそれだけで尊い。特に「僕が君の足に、君が僕の目に」って台詞、心臓ぶっ刺されたわ。ぼやけた世界に鈴の音が響く出会いのシーン、映像が浮かぶようで美しかった。この先、二人でどんな景色を見ていくのか、めちゃくちゃ気になる!続き待ってます🔥