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街を歩く。人がいて、物があふれていて、相変わらず忙しなく光る交差点。めっきり寒くなってきて、人はそれを「ぬくもりだ」とどこか勘違いしたくなる季節。
電光掲示板には、よくわからない数字がカウントされていた。
「……あぁ、カウントダウンか」
私は交差点で、隣の彼と手をつなぎながら数字が減っていくのをただ眺めていた。一年の終わりを感じようとしてみても、胸の奥には何も残っていない。
忙しい毎日と、忙しい恋愛で、気づけば自分の心の置き場所さえ忘れてしまった一年だった。
数字が0に近づくにつれ、彼は私の手をぎゅっと握り、キスをしようと顔を寄せる。
私は恥ずかしくなって顔をそらした。
――その瞬間、視界いっぱいに広がったのは、同じように寄り添う人たち。
けれど、なぜか笑顔より涙が多い。
頬を伝うのは寂しさ? 悔しさ? それとも、言葉に出来ない何か?
すすり泣く声。誰かの叫び。温度のわからないざわめき。
私は理由がわからないまま、彼の手を振りほどき、駆け出した。
電光掲示板のすぐ下には、ひとりの女性が立っていた。
パーカーのフードを深くかぶり、目線を落として手に小さなベルを持っている。
「……カーン……カーン……」
澄んだ音が交差点に響くたびに、喧騒が一瞬ふっとやわらぎ、
耳に触れる世界が淡くほどけていく。
私はその音に吸い寄せられるように立ち止まった。
胸の奥に空いていた隙間に、なにか静かな灯りがともった気がした。
「……そっか。私はずっと……気づけなかったんだね」
言葉がこぼれた時、まわりの風景がやわらかく揺らぎ、
ざわめきも涙も怒号も、まるで遠い夢のふちのようにほどけていく。
その日、あの街は“終わり”を迎えたわけではなかった。
ただ、そこにいた人たちが、それぞれの「つづき」へ進む合図を受け取っただけだった。
私たちは知らないまま、いつもどこかで
“次の章へのカウントダウン”を生きているのかもしれない。