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(高柳部長は、やっぱり勘違いしてるよ。私なんかいてもいなくても坪井くんは何も変わらないんだから)
「あ、ごめん!ちょっと待って」
車の前までたどり着き、助手席側のドアを開けた途端。
すでに運転席に座ろうとしていた坪井が声をあげた。
「散らかしっぱなしだった、ごめん、誰も乗る予定なかったし」
「ううん、私こそ、ごめんね、面倒だよね。やっぱタクシーで帰ろうかな」
「え!?」
短く叫んで、助手席のシートに散乱した書類やタブレットなどを乱雑にまとめて後部座席に投げおいてから、坪井が更に大きな声を張り上げる。
「待って、ごめん白状すると!ちょっとこっそりテンション上がってたから俺!別々で帰るなんて言わないで」
あまりにも必死に言われたので、おとなしく頷く。
「え、う、うん……ありがとう……」
そのまま車に乗って、真衣香はひたすらに前を見つめた。身体の右側がやけに緊張しているのがわかる。
「そういえばさ、その、八木さんと……約束とかしてなかったの? 大丈夫? 俺と一緒だとか後から知られたら怒られない?」
「約束? してないよ」
「あ、そうなんだ。金曜だしてっきり」
隣をこっそり見れば、少しだけ口元が綻んでいる。だけど、すぐに、それを手で隠すように覆った。
真衣香の視線に気がつくと「あ、違う!喜んでるわけじゃないから」と。慌てて大きく手を振って否定をしているようなのだが。
何に慌てているのかがさっぱりわからない真衣香は、首を傾げた。
「はは……、なんかダメだな。緊張するよな、行こっか」
坪井がゆっくりと車を発進させたので、真衣香は急いで締め忘れていたシートベルトに触れた。
(緊張するのは、私なんだけど)
いつだって、ドキドキするのも振り回されるのも、真衣香だけだった。
……はずだ。