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ruruha
201
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柘榴とAI

92
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シトリンが頭を抱えるほど真剣にデザインを考えている様子、すごく伝わってきました。そこに飛び込んできたソラヤのアイデアが「古代の錐型墓」というのが大胆で、でも確かに威厳と観光性を両立できそうで、思わず「なるほど!」と声が出ました。二人の信頼関係と、それぞれの決断力の速さが楽しい回でしたね☺️
「う〜〜〜ん……………」
人工温泉の建設に向け、シトリンは自室にて、悩ましげな声で唸っていた。
予算の都合は付いた、竜神様の許可も取れた。ならば何をそんなに悩むのかと言えば、人工温泉をどのような形にするかという点である。
人工貯水池のように、ただ広く土を掘り下げ、そこに湯を貯めれば良いのかと言われれば、そうともいかない。
人工温泉は、ただの風呂ではない、人を集めるための観光地だ。見た者を喜ばせる美しさ、あるいは荘厳さが必要になるだろう。
更に言えば、人間のための施設ではなく、竜神様のための施設でなければならない。
威厳を示し、人々から敬われ、癒しの力に感謝を示すという構図にしてこそ、他で替えの効かない観光地になるし、その威光は治安維持の助けにもなるだろう。
ではどういう形に? と考えてはみるが、碌に案が出てこない。巨大な人工温泉という、前代未聞の施設を作ろうというのだから、建築技術や設計士でもおいそれとアイデアは出せない。前例が無いというのは、それだけ難しい事なのだ。
自分で描いたイメージ図のスケッチやら、設計士に描かせたスケッチやらを机に広げて、あーでもないこーでもないと悩むばかりだ。
「シトリーン、ただいまー!」
思考が煮詰まって、焦げ付き始めた頃、城下町を観光しに行っていたソラヤが帰ってきた。
ソラヤがラヴァリンに訪れると、ほとんどシトリンと一緒に居るから、シトリンが自室に居れば、そこにやってくる。
国賓待遇なので、もちろん客間を用意してあるが、寝泊まり以外で使われる事はほとんど無い。
「おかえりなさい。観光は楽しめたかしら?」
「うん!シトリンが集めた人達に案内させたら、行ったこと無い所に連れていってくれて、すごく楽しかった!」
ソラヤは今回、観光のお供に自分の従者ではなく、シトリンが集めた荷運びの衆を連れて行ったらしい。
ソラヤは何度もラヴァリンを訪れているし、その大半を遊んで過ごすから、今更どこに連れて行こうとも、すでに歩いた事のある場所ばかりだろう。そんな訳で、場末や裏道に詳しい男衆を引き連れ、まだ行ったことのないような所に案内させたのだ。
王女様の案内をさせられた彼らは、さぞかし胃が痛んだであろうが、ソラヤは上機嫌で帰ってきたという事は、まあ粗相無く案内出来たのだろう。
「わたしは楽しかったけど、シトリンはなんか楽しくなさそうね」
ソラヤは、シトリンが頭を悩ませているのを目ざとく見破って、それを素直にぶつけてきた。
商業国出身ならではの洞察力と、ソラヤの奔放な性格が合わさると、こういう言動になる。
「分かる? 実はね、人工温泉の形をどうするか、決めかねてるの」
「形? このスケッチがその候補って事?」
ソラヤは、雑多に散らばったスケッチに眺めながら、そう言った。
ただの四角い水溜めだの、王城と中庭を模した物だの、どこが浴槽でどこに入るんだか見当のつかない物だの、なるほど採用したくならないデザインが並んでいる。
ソラヤが眉間に皺を寄せて、いかにも好かないという顔をしだしたので、シトリンは流れを変えたくなり、人工温泉のデザインに必要な要素を語って聞かせた。
「なるほどね……、そういう条件で考えようとしたら、こうなるのも頷けるわ」
ソラヤは、改めてスケッチを見返し、渋い顔で呟いた。
ソラヤは時折、アルタリアお抱えの職人に無茶振りして、宝飾品など作らせる事があった。
この人工温泉のデザイン達は、そういう無茶振りをした時に出てくる頓痴気なデザインと、おおよそ似たような傾向がある。
悩みすぎて、何が正解か分からなくなった人間が辿り着く所は、だいたい似たような物なのである。
宝飾品と建造物、作り方も用途も全然違うが『これを描いた人は、途方に暮れた末にコレを出したんだな』という事が見て取れるのは同じだ。
「そういう訳だから、ソラヤにもアイデアが無いか聞きたいんだけど」
王女とはそういう物なのかなんなのか、シトリンも時折こういう無茶振りをする。
「アイデアかあ。う〜〜〜〜ん…………」
シトリンが悩んだのと同じように、ソラヤも腕組みをして、難しい顔で唸りだした。
アルタリアにある、宮殿や宗教施設をコピーする訳にはいかない、文化が違うから、雰囲気が合わない。かと言って、今出ている候補とは別の形にするというのも難しい。
続いて、アルタリアの名所に思いを馳せてみる。広大な砂漠……、砂漠のオアシス……、宝石鉱山……、古代の墳墓……____
「あ!」
不意に、閃いた。その瞬間、脳裏にはっきりとしたビジョンが見えた。
「ソラヤ、何か思いついたの?」
「うん! 紙とペンを貸して!」
紙とペンを受け取ると、ソラヤはすらすらとペンを走らせて、台形の上辺が湯船になっている構造物。その構造物から溢れ出た湯が、下の貯水池に注がれている様を書きあげた。
シトリンはこの時初めて知ったのだが、ソラヤの絵心はかなりの物で、迷いなく線を引いていく。
フリーハンドなのでいくらかのブレはあるが、意図を伝えるには十分すぎる画力だ。
「アルタリアにある、古代の錐型墓! その頂点を平らにして浴槽にするの。そこに入った竜神様を、人々がそれを見上げる形にする! これなら威厳も出るし、観光地としてもバッチリよ!」
古代墓は、四角錐型に石が積まれた巨大な建造物である。
古代アルタリア人は、文字を持たない民族だったので、当時の技術でどうやって建てたのか、誰がなんのために建てたのか、正確には分からないが、宝石や貴金属で彩られた棺が発見されたことで、高貴な人物の墓、おそらく王墓か何かだったのだろうと推測されている。
シトリンは、ソラヤに招かれて一度だけアルタリアに行ったことがある。
その時に見た錐型墓は、何をどうしたらこんな物が作れるのか、見当もつかないほど巨大で、圧倒的な存在感と迫力があった。
巨大に石積であるから、使う石材や形次第で、大体の文化圏に馴染むだろう。もちろん、ラヴァリンにおいても。
そのままの大きさで作ったら、いくら竜神様が巨体であると言っても、その身に余るだろうが、まさかソラヤも、同じ大きさで作るとは考えていないだろう。あくまで、模した物という事だ。
「平らにした所に浴槽用の窪みを作る。そこにお湯を貯めるて竜神様が浸かると、溢れ出たお湯が人間用の浴槽に流れ込む、人々は竜神様のご加護だと有難がる! どう? 良いアイデアでしょ?」
説明しながら、ペンを走らせて、おおよその完成予想図を描きあげた。
「すごいわね………」
シトリンは、素直な感想を述べた。アイデアが素晴らしいという事はもちろん、親友の知られざる才能を目の当たりにしたという事もあった。
「んふふ〜、そうでしょ〜!」
素直に褒められたソラヤは、一切謙遜する事なく胸を張り、鼻を鳴らした。
褒められ慣れているし、国力のおかげで大体の事は苦もなく通るから、幼少の頃から醸成された自信家に仕上がっている。
自信家だから、引け目を感じるという事がなく、決断も早い。シトリンも決断力は早い方だが、ソラヤはそれ以上だ。
「よし、この案で行くわよ! これを設計士に渡して、図面に起こしてもらうわ!」
シトリンは、ソラヤが描いたスケッチを引っ掴んで、部屋から飛び出した。ソラヤの事は放ったらかして、一目散に設計士の所まで駆けていく。
主が不在となった部屋に残されたソラヤは、『しょうがない娘ね』とでも言わんばかりの顔をして溜め息をついた。
「全くシトリンったら、コレと決めたら一直線なんだから」
シトリンに対して放った言葉だが、ソラヤだってそうである。もちろん、自分がシトリン以上に直情的で、行動が早いという事は、まるで考慮されていないのであった。