藍Side
「おーい、藍?こっち来てくれる?」
「‥‥あっ、藍と組むからいいよ」
「らぁーん、おーい‥」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
「なんか今日めっちゃ太志さんと一緒にいるよな‥てか、呼ばれ過ぎじゃね?」
練習の合間、小川さんが不思議そうに尋ねる。無理もない。ことあるごとに俺の名前を呼ぶんだもんな、太志さんが‥。
それも大声で。どう考えても祐希さんを意識しての行動だろうけど‥。
‥そしてまた俺を呼ぶ声が聞こえ、慌てて駆け寄る。
「今度はなんすか?」
「なんすか?‥じゃねぇよ!俺ばっかりお前の事呼んでるじゃん!たまにはお前も呼べよ!」
「へ?なんで?」
「‥今朝、喋ったじゃん?あの面倒くさい祐希に妬きもち妬かせようって。それを実行してるのに‥お前からはちっとも俺の事呼ばないんだもんな。これじゃあ、俺がお前の事好きな奴になってんじゃん!」
「用事もないのに呼べないっすよ‥」
「いや、呼べ!用事なくても呼ぶんだぞ!それに何か組む時は俺とするから‥」
「はぁ‥‥でも、祐希さん全然こっち見てない気がするんですけど‥意味あるんかな?」
「ふっ‥お前は分かってねぇな‥これだけ大きな声でお前を何回も呼んでるのに一度も見ないって‥逆に言えば、気になって仕方ないって事なんだよ‥」
ニンマリと太志さんが笑う。そういうものなのだろうか‥。
「‥でも、祐希さんが妬きもち妬かずに万が一‥俺に愛想が尽きた‥なんてことになったらどうするんです?」
もし、祐希さんから別れを切り出されたら‥
俺の方が‥どうにかなりそうや‥。
「えっ?祐希から?あはは笑!ないない!天地がひっくり返ってもないな、そんな事は!アイツ、お前に惚れてるから♡」
「はぁ‥」
「心配すんなって。まぁ、それでも‥もし万が一‥愛想尽かされたらさ、俺がお前の面倒見てやるよ!」
「えっ??」
「ん?‥あっ///、いや‥なんだ‥アレだよ///‥俺‥子供‥あっ、そうそう、お前の事も子供みたいに面倒見てやるって事だよ!決して‥アレだぞ‥アレ‥///やましい意味で言ってないからな///」
「何急にうろたえてるん?そんなの当たり前じゃないっすか、笑」
くすくす‥と笑うとそれだけで顔が赤面する太志さん。なんだろう‥こんな可愛いとこもあるんやな。知らんかったな‥。
「藍?太志さん何だったの?」
「大した事じゃなかったで。何でなん?」
「そう?いや、めちゃくちゃ楽しそうに会話してたから‥なんか2人の世界みたいになってたし‥」
「2人の世界って‥笑」
そんな訳ないじゃんと小川さんにツッコミそうになるが‥そう見えているならこの作戦は成功しているということだろう。祐希さんが妬いてくれているかは不明だが‥
「なんだよ?変な顔して、気持ちわりぃな‥」
「‥その言葉そっくり小川さんに返すわ!」
「バカか。てか、仲良いのは良いんだけど‥祐希さんは大丈夫なわけ?」
「えっ‥‥‥‥‥?」
「いや‥今日も全然喋ってねぇし、祐希さんは不機嫌そうだし‥お前絡みだろ?祐希さん機嫌悪いの‥」
「ん‥まぁ‥‥わかる?」
「太志さんにも昨日聞かれたからね‥まぁ、早く仲直りしろよ!じゃないと、とばっちりが俺等にも来るし‥」
「んー‥‥‥、うっす」
仲直りか‥俺からきっかけを作って話し合えばまた元通りになれるんだろうか‥
ふと思うが‥今の状況で祐希さんに近づくのは難しい気がする‥なんといっても、太志さんがおるし‥そもそも俺等の仲を勘違いしている祐希さんが話し合いに応じてくれるのかも分からない‥
「‥なんでこうなったんやろ‥」
はぁと溜め息を吐き出す。気付けば小川さんはそそくさと智さんの所に行ってしまい‥1人になっている事に気付く。
次は対人か‥。ペアを組めと言われていたんだっけ。それならばと‥約束していた太志さんのそばに近寄る。
「来ましたよ!やりましょー」
「おっ、やっと来たな♡ 」
‥どうも俺から誘われるのを待っていたんだろうか‥。声を掛けると途端に笑顔で抱き着かれ、妙に気恥ずかしくなる。
‥そんな中、祐希さんをチラリと伺うも‥確かに機嫌の悪さが垣間見れるが‥それ以外はいつもと何ら変わりはないように思える。
いつまで続けるのか‥また太志さんに聞いてみよう‥。
「藍♡待ってたよ!こっち来いよ」
練習も終わり‥食堂に着くなり、太志さんに声を掛けられ近寄ると‥同じテーブルに祐希さんと西君が並んで座っていた。
一瞬躊躇いつつも、太志さんの横に座り‥斜め前の祐希さんの顔を盗み見る。俺が来たことに対しての反応はほとんどなく、黙々と食事をしている。
「太志さん、今日やけに藍と一緒っすよね?何かありました?」
当然と言えば当然なのだが、こちらの事情を知らない西君が俺達を交互に見て話しかけてくる。興味津々な表情‥
「いや、別に何にもないけど‥同部屋だからかな」
「同部屋?あれ?でも確か藍は祐希さんとじゃなかったっけ?」
「うん‥そうやけど‥変わって貰ったんすよ‥」
「変わって貰ったの?なんで?」
「えっとぉ‥」
なんと説明すればいいのか‥。言葉に詰まる‥。そんな俺の横で、
「藍は祐希より俺の方がいいって事だよな♡」
「えっ?俺はそんな事‥」
「へー、そうなん?なんだ、祐希さんフラレてるじゃん!笑!あっ、だから今日機嫌悪いんだ?やばいね!笑」
ケタケタ笑いながら祐希さんの肩を叩く西君。機嫌が悪いのを知っていての行動とは思えない。怖いもの知らずにも程がある。
「そうそう!祐希はフラレたんだよ!ご愁傷さま♡」
さらに追い打ちをかける太志さん‥。すると、それまで黙々と食べていた祐希さんだったが‥
「お前が勝手に決めるなよ」
と一言。一瞬で空気が変わる。
「あれ?話さないんじゃなかったっけ?」
「‥わざとだろ?わざと藍と一緒にいて俺に見せつけてる‥」
「えー、お前の気のせいじゃない?なんでそう思う訳?」
「白々しい‥どうせ、俺への当てつけなんだろ」
「それが何?そもそも、お前が全然話聞かねぇからだろ。だったら、お前が望むように藍と仲良くしてやろうって事じゃん。それの何が悪いんだよ?」
‥淡々と話す2人だが‥鋭い目つきに‥空気感に‥場が凍りつく。
理解していない西君でさえ、ただならない空気感に押し黙ってしまった‥。
「俺が望む?なに言ってんの?」
「藍と俺との仲を疑ってたろ?だから、それを現実にしてやるって言ってんの!」
「そんなの出来るわけないだろ」
「はっ!疑ってたくせに‥よく言えるよな。今日だって‥本当は気が気じゃなかったんだろ?藍と俺がずっと一緒にいたから‥素直に言ったら?妬いてたって‥」
「‥もういい」
「はい!出た!お前の”もういい”が‥いいんだな?本気で貰うぞ‥藍を」
「ちょっ、ちょっと、太志さん!?」
嫌な感じがする。慌てて割り込むが‥もう遅い‥
「わかった‥好きにしたら?部屋を出て行ったのは藍の方だし‥俺より太志の方がいいって事だろうから‥」
「‥はっ? 」
思わず口に出てしまう。祐希さんの一言に。投げやりな物言いに‥そっけない態度に‥。ふつふつと怒りがこみ上げる。
部屋を変えたのは俺だが‥その原因は祐希さんにもあるのに‥。
ガタンッ!!
気がつけば椅子から立ち上がり、目の前の祐希さんを睨みつけていた。
「部屋を勝手に変えたんは悪かったと思ってる‥でも、原因は祐希さんにもあるじゃないっすか。
話も聞かんくせに‥。
俺の方がもういいわ!
行こう!太志さん!!」
一気にまくし立てると、隣の太志さんの腕を掴み立ち上がらせる。突然掴まれたせいで驚愕しているが、構うもんかと腕を引っ張り上げた。
そして、テーブルから離れる瞬間‥視界に入ったのは‥
呆気にとられる西君の顔と‥
顔色1つ変えない祐希さんの表情だった‥。
ほんの少し‥
ほんの少しやけど‥
引き止めてくれるんじゃないかと‥
淡い期待を抱いていたのに‥
涙をグッと堪え‥そのまま食堂を後にする‥。
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