「はぁ…」
今日あの場所で渡辺の顔を見た時に、深澤の事を思い出した
俺と別れたアイツも、あんな悲しそうな顔をしていたのだろうか…?
思い出そうとして、やっと気付いた…
自分の前では笑顔をけして絶やさなかった深澤の健気さに…胸が奥がギュッと締め付けられる
『もっとアイツの色々な顔が見てみたかった…』
笑った顔はもちろんの事、怒った顔や泣いた顔…拗ねてイジけた顔なんかも見てみたい
いつの間にか、深澤の事で頭がいっぱいになってしまい…情けない自分に苦笑いする
自分達は、つい最近別れたばっかり…
しかも、その原因は…全て自分の方にある
それなのに今は会いたいだなんて…都合が良すぎるにも程がある
『深澤は今、どんな顔をしているのだろうか…?』
考え過ぎて、目が冴えて眠れない…
強めの酒を1人で煽り、気づけばそのまま眠っていた
◇◆◇◆
「んっ…」
早朝、床の上で目を覚ます…
「?」
手に握られたスマホに、着信の形跡が
俺は相手の名前を見て驚いた、どうやら俺はアイツに【会いたい】と送っていたらしい
◇◆◇◆
「昨夜はごめん…」
深夜の着信なんて、迷惑以外の何物でもない…
俺は頭を下げて謝り、深澤も笑顔で許してくれた
「ねぇ、あのLINEの意味…教えてくれる?」
気になってよく眠れなかったと、よく見れば目の下に隈が薄ら…
「何かあったの?」
心配そうに見つめる顔は、あの頃と何も変わっていない…
「大丈夫、何もない…」
岩本が笑って誤魔化すと、深澤は困って様に笑うだけで…それ以上何も聞いて来なかった
◇◆◇◆
「はい、二日酔い辛いんでしょ?」
深澤が俺の前に買って来たばかりの冷たい水を置き、まるで子供を心配する母親の様な顔をして…こちらを見てくる
「照なら、分かってると思うけど…」
「ごめん、大丈夫…仕事に支障はきたさない…」
そう謝ると、苦笑いする
「どうせ、飲み過ぎた理由も言えないんだろ?」
その問い掛けに、当然本人に言える訳もなく…
「ごめん、言えない」
そう答えると…しばらく何か考えていた深澤は、深いため息を吐き諦めた様に笑って何処かへ行ってしまった
◇◆◇◆
俺は深澤から言わせると、秘密の多い人間らしい…
確かに自分は、口下手で…リアクションも下手だと思う…
言いたい事も他のメンバーに比べて、顔に出にくいタイプだし
何なら全部、1人で解決したいと思って焦ってしまい…【もっと人に頼れ】と言われた事だってある…
「………」
俺は、そういう性分なのだ…グループのリーダーで、年下のメンバーからは頼れる兄貴分…
仕事にしても、プライベートにしても…今更、誰に頼れと言うのだろうか?
「はぁ…」
胸の中のモヤモヤを何とか吐き出したくて、わざと大きなため息を吐き
俺は、机の上に突っ伏した
◇◆◇◆
「なぁ、照兄…なんか調子悪いん?」
向井が飲み物を入れていた深澤に声を掛けて来た
「まぁね、何かちょっと悩んでるみたい…でも、誰にも話したくないんだって」
「頑固やなぁ…」
唇を尖らせた向井が、ワザとらしく肩をすくめる
深澤はそれに苦笑いして…
『まぁでも、そろそろ何とかしてやらないと…』
岩本が潰れる前に何とか解決してやりたいと、心配そうな視線を彼に送った
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