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「なぁ照兄、大丈夫?」
心配なのは向井も同じだった様で、積極的な彼は岩本の所に声を掛けに行き
深澤は少し離れた所からそれ見守り…何かあれば助け舟が出せる様にと心の中で準備した
「大丈夫だから、気にしなくて良いよ…」
いつも通りの岩本の答え
「でもさ…」
「だから、大丈夫だって!」
二日酔いと考え事で…いっぱいいっぱいになっていた岩本は、心配する向井を…少々冷たく強めのトーンで突き放してしまう
「もう良い加減にしろよ!」
その時…今まで黙って聞いていた深澤が、珍しく声を荒げる
「皆んな、照を心配してるんだから…気にするなは無いんじゃないの?」
突然の事に…周囲は静まり、成り行きを見守っている…
言われた本人でさえ何が起きたか分からず固まっていた
「照はさ…いつも大丈夫って言うけど、全然大丈夫そうに見えないんだよ!俺達、仲間だよね?信頼してくれてるんだと想ってたのに…そう思ってたのは俺達だけ?悩んでる事も何一つ、相談してくれない…そんなの仲間って呼べる?いつも照が俺達にしてくれてるみたいに、照の力になりたいって思ったら駄目だった?一緒に笑っていたいって思うのは迷惑なの?」
肩で大きく息をしながら、今まで溜め込んできた思いを告げる…
いつの間にか、涙が頬を伝い…自分が泣いているのだと気がついた
「ふっかさん…」
向井が声を掛けてくれて、周囲の緊迫感も少し和らいだ
「ごめん、俺…一回、頭冷やして来るわ…」
そう告げた深澤は、そのまま部屋を飛び出した
◇◆◇◆
「ふっか…!」
岩本が飛び出して行った深澤の後を追う
まさかアイツが、あんな風に思ってくれていたなんて…
初めて見た感情的な姿に…今アイツを1人にさせたくないと心の底から思い、身体が自然に動いていた
「ごめん!俺が悪かった!」
やはり、鍛え方が違うのか…何とか無事に追いついた岩本は、深澤に向かって大きな声で謝罪する
「…俺、相談するのが凄く苦手で、何とか自分だけで解決したいって思っちゃって…でも、皆んなの事…信頼してないとかそんなんじゃなくて…」
必死に説明する岩本の言葉を、深澤は背中を向けたまま聞いている
「分かってる…」
「?」
「照が人を頼るのが苦手だって事…それでも俺はずっと、照に頼りにされたいって思ってた…」
「………」
深澤の気持ちを聞いた岩本は、胸が熱くなり…それを言葉に出来ない自分をもどかしく感じた
「ごめん、変な事言った…今の無し忘れて…。康二が心配するといけないから、もう戻ろ…」
沈黙した岩本を、困らせたと思ったのか…
振り返った深澤が涙を拭きながらそう言った
「………」
「照も怒鳴っちゃって、ごめん…驚かせたよね」
「………」
思えば、ずっとそうだった…
あんなに真剣に告白してくれたのに…俺の為に笑顔で身を引いてくれた優しい人…
いつも自分の事は、二の次で…周りを優先してくれる温かさに、俺はいつも甘えて過ごして来た
「照?」
ずっと黙ったままだった岩本の顔を、心配そうに覗き込む深澤…
「!」
次の瞬間…腕を引かれた深澤は、岩本の腕の中に居た
包まれる温もりと、その腕の強さ…
「ちょっ…照、どうしたの?」
突然の事に深澤は、どう反応して良いか分からない…
「昨日の夜…ふっかの事考えて眠れなかった…」
「俺の事?」
突然の告白を、岩本に抱き締められたまま聞く…
耳元にある逞しい胸から聞こえてくる鼓動の速さが…彼が今、緊張しているのだと教えてくれた
「もっと色んな顔を見てみたかったな…とか、もっと一緒に居たかったな…とか」
「………」
岩本は、まるで懺悔でもする様に…今まで頑なに隠していた自分の正直な気持ちを伝え始め…
深澤も、それに大人しく耳を傾ける
「そんな事ばっかり考えてたら眠れなくなっちゃって…。強い酒飲んだら寝られるかもってやってみたら、今度はアルコールのせいで抑えてた気持ちのタガが外れたみたいで、気が付いたらLINEで【会いたい】って送ってた…」
「!」
点と点が線で繋がった
岩本の悩みと二日酔い、全部が自分のせいだったなんて…
「こんな俺の事、どう思う?自分勝手に別れておいて、今更一緒に居たいなんて言える訳ないだろ…」
そこまで告げた岩本が、ゆっくりと顔を上げ…2人の視線が重なった
「俺…もう一度、やり直したいって思っても良いのかな?」
岩本の言葉に、深澤が言葉を失い涙を流す
「照、俺…」
「ちょっと待って!」
何かを言い掛けた深澤の言葉を遮り、慌てて止める
「?」
不思議そうに見つめていると、岩本は照れながら…こう答えた
「今度は俺から言わせて欲しい…」
その言葉に微笑む深澤と、向き合う様に岩本が立つ
先程まで泣いていた深澤は、今は俺を見て微笑んでくれていて
泣き顔も見てみたいなんて思った事もあったけど…やっぱりコイツは笑顔の方がよく似合う
あの日、俺に告白してくれた様に…今度は俺が思いの丈を伝えたい…
「ふっか…俺と付き合ってくれませんか?」
精一杯の愛情を今度は俺の方から伝えよう…
「喜んで」
通じ合って抱き合う2人…
【情】を育み【愛】となり、やっと2人は本当の恋人となった
◇◆◇◆
その後、2人はスタジオに戻り…心配を掛けてしまった向井やスタッフ達に謝罪した
そして撮影は順調に進んでいって、今は昼休憩の真っ最中…
「なぁ、ふっかは秘密とかないの?」
向井がスタッフと話し込んでいるのを見計らって、岩本が深澤に声を掛ける
「えっ…俺だって秘密の一つ位、当然あるよ」
「ちょっと…何?」
岩本は深澤の言葉に反応してしまう
「だから、それが秘密だって言ってるだろ…」
「だって気になる…」
不服そうな顔に、苦笑いする
諦めの悪い自分は…別れてからも、ずっと照の事が好きだった事…
諦めなくて良かったと、心の中で安堵して…そっと微笑む
「何?その顔…何?」
自分の事を話すのは苦手でも、反対に秘密にされると気になるらしい…
「さて、何でしょう」
「え〜」
深澤が笑顔で答えると、岩本が不満そうに声を上げた。