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※今まで使った台詞をここで使った場合。……収拾つかなさすぎて、今、脳内ごちゃごちゃ。
放課後の昇降口。
冷たいコンクリートの壁に背を預けたまま、俺は動けなかった。
蓮司の言葉が、耳に、心に、まだ残っていた。
あの手の感触も。
喉元に添えられた、優しい“罰”。
──「欲しかったから、壊したんだろ?」
その一言で、呼吸ができなくなった。
分かってた。ずっと、分かってた。
けど、それを他人の口から言われると、もう逃げ場なんて残らない。
(ほんと、最低だな……俺)
あの夜、怒鳴って、殴って、泣いて。
それでも何も変わらなかった。
強がって、黙って、耐えたつもりでも──
蓮司は、どこまでも“内側”をえぐってくる。
(俺が触れたから、全部壊れた)
その思考だけが、身体の奥底で澱のように沈んでいる。
だから──日下部の足音が近づいてきたとき、
心臓が嫌な音を立てて暴れた。
(来るな、って……言ったのに)
目を上げられなかった。
この顔を見られたくなかった。
もう、なにもかも、壊れきってるから。
「遥」
その声が、やわらかく届いた瞬間、
身体が勝手に反応してしまう。
肩がびくりと跳ねた。
怖いわけじゃない。
でも、痛い。
優しさが、いちばん、痛い。
(なんで……来るんだよ)
「なあ……何があった?」
聞くな。
何も言えない。
言ったら、全部、崩れる。
「……やめろよ」
喉の奥が焼けるように熱くて、
言葉がうまく出てこなかった。
「俺なんかに、関わるな」
それでも、日下部は逃げなかった。
同じ目線にまでしゃがんで、俺を見た。
──その瞳が、まっすぐで、怖かった。
「関わりたいって思った。だから、もう手遅れだよ」
その一言で、胸が軋んだ。
なんで、そんなふうに言えるんだよ。
俺は、汚れてる。
優しさを、ねじ曲げる。
触れたものを、壊してきた。
なのに──
(なんで、おまえは壊れないんだ)
信じるな、って言ったのに。
俺が“壊す側”なんだって、教えられてきたのに。
おまえが、信じるほどに、俺は……俺自身が、分からなくなる。
「……俺、おまえのこと……壊したくない」
その言葉に、反射的に首を振る。
壊すのは俺のほうだ。
壊れるんじゃなくて、壊す。
(壊したんだよ──小学校のときも、中学も)
俺が、欲しかったから。
ただ、それだけで。
「全部、俺が壊した。……欲しかったから」
声が、震える。
でも、日下部は逃げなかった。
「……じゃあ、壊してみろよ」
そう言った。
穏やかな顔で、まっすぐに。
(バカだな……)
涙が出る。
もう何も、隠せなかった。
逃げたかった。
でも、日下部は、ちゃんと受け止めた。
泣きじゃくる俺に、何も言わずに、背中に手をまわしてくれた。
ああ、どうしてこんなに──
温かいんだよ。
(……また、欲しくなった)
それがいちばん、怖い。
欲しがった瞬間に、全部、壊れる。
ずっとそうだった。
これからも、きっと──
それでも。
ほんの少しだけ、俺の身体が、日下部の胸元に寄っていったこと。
自分で気づいて、ひどく混乱した。
(逃げろ、って心が叫んでるのに)
身体が勝手に、日下部の匂いに、温度に、触れていたいって──
そう、願ってる。
もう、なにもかも、壊れてるはずなのに。
──壊れた俺の中に、まだ“望み”が残ってる。
それが、一番、痛かった。