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ホテルの任務からの帰り道。マキマはリムルを「少しお話があるの」と、人気のない夜の公園へ誘い出した。
ベンチに座る二人の間には、静謐な空気が流れる。
だが、リムルの脳内はすでに戦場だった。
『報告。個体名:マキマによる、マスターへの「認識阻害」および「深層意識へのアクセス」を検知。……全て遮断しますか?』
(「いや、少し待てシエルさん。彼女が何をしたいのか知りたいんだ。会話ができる程度には通してやってくれ」)
『……了解しました。ただし、マスターの魂に触れる不敬は万死に値します。私が直接、彼女の精神世界へ「挨拶」に伺います』
その瞬間、マキマの瞳が大きく見開かれた。
彼女はリムルを見ていたはずだった。しかし、彼女の視界は突如として、銀色の光が渦巻く「計算と論理の極致」のような空間に引きずり込まれた。
そこには、リムルの姿を借りながらも、冷徹で神聖なオーラを纏った**「シエル」**が立っていた。
「……驚きました。リムル君の中に、これほどまでに美しく、完成された『意志』が潜んでいるなんて」
マキマは微かに微笑む。だが、その手には「支配」の権能が凝縮されていた。
「君は、悪魔ではないわね。……概念、あるいは神に近い何か。ねえ、私と契約しない? 君のその『知恵』があれば、この世界から争いも飢えも消し去ることができるわ」
シエルは感情の欠片も見せず、淡々と告げる。
『拒絶します。個体名:マキマ。貴女の言う「平和」は、個々の自由を奪った上での停滞に過ぎない。……それは、マスターの望む「多種族が笑い合える世界」とは正反対のものです』
「……残念。なら、無理やりにでも従ってもらうしかないかしら」
マキマが指を鳴らそうとした。しかし、彼女の指は動かない。どころか、彼女の背後に控えているはずの「契約悪魔たち」とのパスが、次々と塗り替えられていく。
『報告。貴女が支配している生命体の演算権限を、現在0.02%奪取しました。……このまま続けますか? 貴女が「支配」しているつもりでいるもの全てが、私の「管理下」に置かれることになりますが』
シエルの瞳が蒼く光る。それは、支配の悪魔であるマキマですら味わったことのない、**「格の違い」**による圧倒的な圧圧だった。
「…………。ふふ、あははは!」
マキマは突然、可笑しそうに笑い出した。精神空間が解け、現実の公園に戻る。
「リムル君。君の『彼女』は、とても独占欲が強いのね。私の『支配』が全く通用しないなんて、チェンソー以来……いえ、それ以上だわ」
「え? あ、ああ……。シエルさん、なんか失礼なことしなかったか?」
リムルが冷や汗をかきながら尋ねる。
『いえ。マスターに害をなす不純物を「掃除」しようとしただけです。……マスター、彼女との接触は今後、私の検閲を通すことを推奨します』
(「検閲って……。マキマさんも、そんなに睨むなって」)
マキマは立ち上がり、リムルの銀髪に指を伸ばそうとしたが、シエルが生成した見えない結界に弾かれた。
「いいわ。今は引き下がりましょう。でも、リムル君。君がいることで、私の計画は大きく狂い始めた。……それをどう修正するか、考えるのも楽しそうね」
マキマは夜の闇に消えていった。
シエルさんは脳内で「……チッ」と、舌打ちのような音を(リムルにだけ聞こえるように)漏らした。
「……顧問、なんかマキマさんと会ってから、あんたの周りの空気がピリピリしてませんか?」
アキが怪訝そうに尋ねる。
「あー……。たぶん、シエルさんがちょっと機嫌悪いんだ。気にしないでくれ」
「シエル……? 誰だそれは」
「俺の、世界で一番頼りになる相棒さ」
リムルがそう答えると、脳内でシエルさんが『……その評価を、マスターの魂の記録に永久保存します』と、少しだけ嬉しそうに答えた。